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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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肉の家

掲載日:2026/02/04

 雨が、降っていた。激しい雨だ。視界はほとんど利かない。

 車のワイパーが激しく動いている。

 私はゆっくりと車を動かせながら、ため息をついた。


「最悪……」


 今日は最悪の日だった。

 朝から会社で上司に怒鳴られ、昼には取引先との商談が失敗。そして帰りはこの土砂降り。

 しかも、道に迷った。カーナビは、なぜか機能していない。携帯の電波も圏外。山道を延々と走っている。


 いつになったら、会社に戻れるだろう。

 そんなことを考えていると、前方に建物が見えた。

 古い洋館だ。明かりが灯っていた。


「こんな所に人が住んでるんだ」


 車を止める。


「雨宿りできないかな」


 そう考え車を降りる。

 雨は容赦なく降り注いでいる。

 洋館のドアをノックする。

 返事はない。もう一度ノックする。

 やはり返事はない。

 ドアノブを回してみた。

 ……開いた。鍵がかかっていない。


「失礼します。すみません。」


「どなたかいませんか」


 中に入り、声をかける。


 洋館の中は薄暗かった。

 ろうそくの明かりだけが廊下を仄かに照らしている。

 埃っぽい。

 何か腐ったような嫌な匂いもする。


「どなたかいませんか?」


 再び声をかけた。

 しかし、返事はない。

 静かだ。不気味なほどに。

 廊下を進む。床の軋む音が響く。

 古い建物だ。


 壁には絵画が飾られていた。

 どれも気味が悪い。常軌を逸している。


 人間の顔が歪んでいる絵。

 人から臓物が飛び出ている絵。

 目を潰された女性の絵。


 吐き気を覚えた。

 何故こんな絵を誰が飾っているのか。

 その時、ふと、足元に何か影があることに気づいた。

 茶色い染み。乾いた茶色の染み。

 それが、廊下の奥へと続いている。


 ここにいてはいけない。

 ここからすぐに出るべきだ。

 と感覚がそう告げている。


 踵を返そうとしたその時。

 背後でドアが閉まる音がした。

 振り返ると入口のドアが閉まっている。


 私は、走ってドアに駆け寄った。

 ドアノブを回す。

 開かない。鍵がかかっている。

 鍵を開けようとするが鍵のつまみがない。


「開けて!誰か開けて!」


 私はドアを叩く。完全に閉じ込められた。

 その時、廊下の奥から声がした。


「ようこそ……」


 低い男の声。私は振り返り声がする方を見た。

 廊下の奥に大きな影があった。


 顔は見えない。何かを持っているように見える。長い棒のようなもの?包丁?


 震えがくる。逃げなければいけない。

 本能がそう告げている。


 私は走った。

 男とは逆方向に。

 男が追ってくる。

 足音が近づいてくる。

 必死で走った。

 空いている部屋に飛び込む。

 ドアを閉め鍵をかけた。

 男がドアを叩き開けようとしている。

 ドンドンと、ガチャガチャと。

 幸いドアは頑丈なようだ。開かない。

 私は安堵した。


 部屋の中をみまわす。

 恐怖がこみ上げてくる。


 部屋は、地獄だった。

 壁一面に人間の皮膚と思われるモノが貼られている。

 剥がされた生々しい皮膚。

 顔の皮膚。

 手指のついた腕の皮膚。

 乳房の皮膚。

 性器と思われるものもある。

 それらが、まるで壁紙のように壁を覆っている。

 私は床にしゃがみ込み吐いてしまった。

 床が目にはいる。

 床には人の臓器と思われるモノが散乱していた。

 心臓。

 肺。

 肝臓。

 胃。

 腸。

 それらが乱雑に積み上げられている。

 血の海だ。部屋全体が血で染まっている。


 部屋の中央にはテーブルがみえる。

 テーブルの上には人間が横たわっていた。

 死体か?いや、死体ではない。 

 まだ、生きている。


 女性だ。裸で手足を拘束されている。

 私は恐怖を押し殺し彼女に近づいた。

 腹から長いモノが飛び出している。

 内臓だ。腹を裂かれている。

 そこから腸がはみ出している。

 また吐き気がこみあげる。


 彼女はまだ息をしていた。

 ピィーピィーと呼吸する音が聞こえる。

 彼女の目が私を見る。

 助けを求める目。

 目は血走り血で濡れている。


 言葉は出ない。

 口が縫われている。

 隙間から吐息が漏れ、ピィーピィーと音をたてている。


 私は悲鳴をあげ、逃げだした。

 ドアに駆け寄り、鍵を開け飛び出す。


 男がいても構わない。

 ここにいるよりはマシだ。


 廊下にでると、廊下には誰もいなかった。

 男は消えていた。


 私は出口を探すことにした。

 ここから逃げなければ。


 慎重にドアや窓を確認する。

 すべてのドアに鍵がかかっている。

 窓は板で塞がれている。

 出られそうな隙間はない。


 逃げられない。

 完全に閉じ込められている。


 その時、足音が聞こえた。

 複数。二人、いや、三人だろうか。

 私は、息を殺し静かに階段を上がる。

 幸い軋む音はしない。

 

 二階も同じだった。

 血痕と思われる茶色い染み。

 すえた臭い。

 生ごみのような腐った臭い。

 鉄臭い血の臭い。

 嗅いだことのない異臭もする。


 気味の悪い絵画も所狭しと飾られている。

 いや、絵画じゃない。これ…写真だ…。


 後ろからコツコツと足音が近づく。

 廊下の突き当たり、一番奥の部屋の扉が空いている。

 私は急ぎ部屋に入りクローゼットに隠れた。


 息を殺す。

 足音が近づいてくる。

 そして、足音が部屋に入ってきた。

 私はクローゼットの隙間から部屋の中を確認する。

 三人の男がいた。

 全員、茶赤く汚れた服を着て顔は、血で汚れている。


 手にはノコギリや包丁。

 ハンマーやバールをもっている

 彼らは、私を探しているようだ。


「どこだ……」


 一人が、呟いた。


「どこにいった……」


「ここにいるはずだ」


 別の男が言った。


「探せ」


 彼らは部屋を物色し始める。

 ベッドの下を見る。

 カーテンの後ろを見る。

 クローゼットに近づいてきた。

 心臓が激しく脈動する。


(だめだ!見つかる!殺される!)


 その時、階下から声が聞こえた。


「おい! 一階に女がいたぞ!」


 三人の男は顔を見合わせた。

 そして、階下に駆けて行った。


 私は安堵した。

 しかし疑問が残る。

 別の女?誰だ?

 もしかして、さっきのテーブルの?

 いや、でも…。


 クローゼットから出る。

 階段まで移動し階下を見た。

 その時、悲鳴が聞こえた。

 女性の悲鳴。

 男たちの笑い声も聞こえてくる。

 別の音も聞こえてきた。


 【ジャキリジャキリ】


 何かがハサミで切られるような音。


 【ゴスッ、メキッ、ゴキッ】


 何かが叩かれ砕かれるような音。


 【メリメリ、ミチミチ】


 と何かが裂かれる音。

 

 【ゴボゴボ】


 と音もする。


 音は止まらない。

 私はその場に座り込んでしまった。

 恐怖で体が動かなかった


 どれくらい時間が経っただろうか。

 悲鳴が止む。

 静かになった。

 突然の静寂。


 私はゆっくりと立ち上がり階下を覗き込む。


 気配がしない。

 男たちがいない?

 しかし、一階には新しい血痕があった。

 大量の血が床に広がっている。

 

 血の中には細切れの肉片が散らばっている。


 口の中に吐瀉物の味がひろがる。

 ここで吐き出してはいけない。

 音を出してはいけない。

 口の中の吐瀉物を静かに飲み込んだ。

 

 涙が流れる。

 なぜこんなことに。

 なぜ、私はここに来てしまったのか。

 神様助けて。誰か助けて。誰でもいい助けて!


 ……しかし、誰も来ない。来るわけがない。

    

 ここは地獄だ。

 血と肉が混じり合う地獄。

 人間の地獄だ。


 私は音を出さないよう、這うようにして、部屋を、出口を探した。

 何か武器になるもの。何か逃げる手段。何かないか。


 しかし、何もなかった。


 ただ恐怖と絶望だけがあった。


 その時ドアが開いた。

 男が一人入ってくる。

 大柄な男。

 顔は血濡れだ。

 手には大きな鉈。

 彼は私を見た。


 そして、笑った。


「ここにいたのか」


 私は走った。しかし男は速かった。

 追いつかれ、髪を掴まれる。

 引き倒され床に叩きつけられた。


 痛い。頭が割れそうだ。

 男が私の上に乗った。

 重い。息ができない。

 男は鉈を私の顔に近づけた。


「綺麗な顔だな……」


 男は笑う。


「剥いだら、もっと綺麗だろうな」


 悲鳴を上げた。

 男が私の口を塞ぐ。

 息ができない。苦しい。


 そして、鉈の刃が私の頬に触れた。


 冷たく鋭い。

 切られる。

 強い痛みが走った。

 激痛だ、熱い。

 血が流れている。

 

 もがいた。

 必死で抵抗した。

 だけど男の力は強い。

 動けない。

 抜け出せない。


 鉈の刃が頬のさらに深くに入り込んだ。 


 サクサクとベリベリと音がする。

 皮膚が剥がされていく。

 血が流れ出ている。

 肉が露出していく。

 ……意識が遠のいていく。


 その時、男が突然倒れた。


 誰かが男の頭を殴ったのだ。

 私は、朦朧とした意識の中で見た。


 そこには女性が立っていた。

 テーブルの上にいた女性。

 彼女はまだ生きていた。

 腹から内臓がはみ出したまま立っていた。

 手には鉄パイプを持っている。


 彼女は私に手を差し伸べた。

 しかし声は出ない。

 ピィーピィーと音だけがしている。

 私は、彼女の手をとり立ち上がった。


 顔面からの出血が止まらない。

 でも今は、そんなこと気にしている場合じゃない。

 逃げなければ。


 女性と私は逃げるために走った。

 だけど女性のお腹からは内臓がこぼれ出ていく。

 すぐに男たちが現れた。二人の男。

 彼らは女性を見て驚いている。


「なんで、生きてる!?」


 そして、襲いかかってきた。

 女性は持っていた鉄パイプを振る。

 一人の男の頭に命中し男が倒れる。

 しかし、もう一人の男が女性に体当たりした。


 女性が倒れる。

 倒れた拍子に裂かれた腹がさらに開く。


 腹からこぼれ出た内臓がボトリと床に落ちた。

 

 私は叫んだ。

 そして、落ちていた鉄パイプを拾い。

 男に向かって振るった。


 男の肩に鉄パイプが当たる。

 男は平然としている。

 そして私に向かってくる。

 私は再び鉄パイプを振るう。

 今度は男の顔に命中し、男が怯む。


 男が怯んだその隙に私は走った。

 一人で。


 ごめん。

 罪悪感が心を埋める。

 だけど私は生きたい。生き延びたい。

 女性がいると逃げることもできない。


 私は階段を駆け下り玄関に向かった。

 玄関のドアは閉まっている。

 ドアの横に窓があった。

 板で塞がれている。

 塞がれてはいるが古い板だ。

 私は鉄パイプで窓の板を叩いた。

 繰り返し、繰り返し叩く。

 板が割れ、窓が割れた。

 

 そして、逃げることのできる隙間ができた。


 私はその隙間から外に出ようとした。


 その時、背後から腕を掴まれた。


 腕が痛い。凄い力だ。

 先ほど私の顔を切った男。

 鉄パイプで殴られた男。

 男が頭から血を流しながら立っていた。


「逃がすか……」


 男が私を引き戻す。

 私は抵抗した。

 逃げなければ殺される。

 鉄パイプで男を殴る。

 何度も、何度も。

 男の顔がぐしゃりとひしゃげていく。


 眼窩が窪み目が飛び出す。

 鼻が裂け折れる。

 歯が砕け飛び散る。

 血が舞っている。


 叫びながら、男を殴り続けた。

 男は動かなくなった。


 私の手は血まみれだった。


 だけど、今はそれどころではない。

 私は再び窓に向かい、隙間から外に出た。

 割れたガラスが刺さり身体が切れる。

 強い痛みが走る。


 構わない。

 外に出られれば、それでいい。

 私は地面に転がり落ちた。


 雨が降っている。

 強く冷たい雨が私の体を濡らす。

 しかしそれが心地よかった。


 外だ。

 やっと、外に出られた。

 私は立ち上がり、走った。

 洋館から、離れるように。

 森の中を延々と。

 何も見えない。

 ただ走った。

 どれくらい走っただろうか。


 足がもつれ転んでしまう。

 起き上がれない。

 体力が尽きる。

 意識が遠のいていく。

 もうダメだ。

 ここで死ぬのか……。

 

 その時、光が見えた。

 車のヘッドライト。

 誰かが…来た。

 私は、最後の力を振り絞って手を挙げた。

 助けて……。

 お願い……。

 意識が途切れた。


 目覚めると白い天井。

 消毒液の匂い。

 ベッドの上で私は横たわっていた。

 体中が痛い。

 顔が強く痛む。

 

「目が覚めましたか」


「ここは……」


「病院です。あなたは、森の中で倒れていたところを、発見されました」


「洋館は……」


「洋館?」


 医者は首を傾げる。


「何のことですか?」


「あの……血まみれの洋館……」


「すみません、私には何のことだか…」


「……」

 

 医者は、カルテを見ながら言った。


「傷はかなり深いです。特に顔の傷。今後も傷跡が残ると思います」


 鏡を見た。

 顔の右側が包帯で覆われている。

 その下には何があるのか…。


 恐ろしくて、見たくなかった。


 警察が事情聴取に来た。

 傷だらけで森にいたことで通報されたようだ。

 

 私は洋館のことを話す。

 警察からはあの場所に洋館などない、あの周辺には建物は何も無いと告げられた。

 警察は私が何者かに襲われたと判断した。

 犯人は不明。事件は未解決のまま。

 

 病院を退院し家に戻る。

 だけど、もう以前のようには生きられない。

 顔の傷は消えない。

 鏡を見る度に思い出してしまう。

 あの夜のことを。あの恐怖を。

 あの男たちを。

 そして、私を助けてくれた、あの女性を。


 彼女はどうなったのか。

 まだ、あの洋館にいるのか。

 それとも、死んだのか。


 わからない。

 ただ、一つだけ確かなことがある。

 私は生き残った。


 しかし、それは救いではなかった。

 延々と続く悪夢の始まりだった。


 その後、私は精神科に通うようになった。

 心的外傷後ストレス障害、PTSDと診断された。

 夜、眠ろうとしても眠れない。 


 眠ると悪夢にうなされる。

 あの洋館の夢を見る。

 あの男たちの夢を。

 夢で顔を裂かれていく。


 薬を飲んでも効果がない。

 私は、次第に現実と夢の区別がつかなくなっていった。

 ある日、街を歩いていてあの時の男に、似ている人がいた。

 パニックになった。

 逃げようとした。

 足がもつれて、転んでしまった。

 周囲の人が見ている。

 私には、彼らが敵に見えた。

 全員が、あの男たちに見えた。

 私は叫び悲鳴を上げた。

 地面に頭を打ち付けた。

 そして、気を失った。


 目が覚めると病院だった。

 精神病棟。

 私は隔離されていた。

 医者は言う。


「あなたは、重度のPTSDです。治療が必要です」


 しかし、治療は効果がなかった。

 私は、次第に現実から遠ざかっていった。


 そして、ある日。

 私は自分の部屋で鏡を見た。

 顔の傷跡がまだそこにあった。

 醜い傷跡。その傷跡を触った。

 そして思った。

 この傷がなければ。

 この傷さえなければ、すべて忘れられるのに。


 ハサミを取り出す。

 ナースステーションから盗みだしたハサミ。

 

 傷跡に当てた。切ろう。

 この傷を切り取ろう。

 そして、忘れよう。

 すべてを。


 私は、ハサミを動かした。

 ジャキッ

 皮膚が切れた。血が流れる。

 痛い。


 ジャキッジャキッ


 しかし止まらない。もっと切らないと。

 もっと、もっともっと深く。

 私は自分の顔を切り続けた。

 床が赤く染まっていく。

 意識が遠のいていく。

 

 これで終わる。この悪夢が終わる。

 私はそう思いながら、意識を失った。


 死ぬことはできなかった。

 倒れた私を看護師が発見した。


 緊急手術を受け成功。命は助かった。

 でももう顔は見れたものじゃない。

 傷だらけだ。もう、人間の顔とは言えない。

 怪物のような顔。


 私は鏡を見て笑った。

 もう、どうでもいい。

 私はもう人間じゃない。

 

 怪物だ。

 怪物にはあの洋館がふさわしい。

 あのおぞましい男たちも怪物だった。


 ある夜。

 私は病院を抜け出した。

 もう、ここにはいられない。

 向かう場所は一つ。

 ただ一つ。あの洋館。あの地獄。


 私は車を盗み山道を走らせた。

 あの夜と同じ道。雨は、降っていなかった。

 ただ霧が出ていた。深い霧が。

 視界が悪い。1メートル先が靄に霞む。

 それでも私は進んだ。

 何時間も車を走らせた。


 そして

 そして、ついに見つけた。

 洋館を。


 それは、そこにあった。あの時のあの場所に。

 

 洋館には明かりが灯っている。

 私は車を降り、洋館に近づいた。

 ドアは開いていた。

 中に入る。

 廊下は変わらず血で汚れている。

 臭い。腐った肉の臭いがする。

 今はもう気にならない。

 奥へ進む。

 あの部屋に辿り着いた。テーブルの部屋。

 テーブルの上にはなにもない。

 部屋には男たちがいた。三人の男。

 彼らは私を見て、笑った。

「戻ってきたか」

「待っていたぞ」

 私も笑う。

「ええ。戻ってきたわ」

 私は、彼らに近づく。

「私も仲間に入れて」

 男たちは顔を見合わせ、そして、頷いた。

「いいだろう」

 こうして、私は彼らの仲間になった。

 人間を狩る、怪物の仲間に。

 もう、私に戻る場所はない。

 これからは、ここが私の居場所だ。

 この地獄が。


 それからは、彼らと共に人間を狩った。

 道に迷った旅人。山に入った登山者。雨宿りに訪れる者。

 私は彼らを館に誘い込み。殺した。

 最初は躊躇もあったが、すぐに慣れた。


 人間を殺すことに。


 皮を剥ぎ飾り付ける。

 腹を裂き内臓を取り出す。

 日常になった。


 ある日。

 新しい獲物が洋館を訪れた。

 若い女性だ。車で道に迷ったらしい。

 私は彼女を迎えた。

「いらっしゃい」

 女性は私の顔を見て驚いている。

 傷だらけの顔。怪物のような顔。

 しかし、すぐに笑顔を作った。

「あの、道に迷って……」

「大丈夫よ。ここで休んで」

 私は、彼女を中に誘う。そして…ドアを閉め、鍵をかけた。

 女性は気づく、罠に、かかったことに。

 彼女は逃げようとした。だけど、もう遅い。

 男たちが現れ。彼女を捕まえる。


 そしてテーブルに縛り付けた。

 女性は叫び。泣いた。懇願した。

 それは無駄に終わる。


 私は包丁を手に取り。彼女の顔に近づけた。

「綺麗な顔ね」

 私は、笑う。

「その顔の皮を剥いだら、きっともっと綺麗よ」

 そして、刃を彼女の頬に当て刺し込む。

 彼女は悲鳴を上げ、もがくように身体を動かしている。無駄だ。ただうるさい。

 彼女はすぐに静かになった。


 唇と唇を縫いつける。


 静かになった後、私は、ゆっくりと皮膚を剥ぎ始めた。血が溢れる。赤みを帯びた筋線維が露出する。

 彼女はもがく、しかし、逃げられない。

 私は作業を続けた。顔の皮膚をすべて剥ぎ終わる。それを壁に貼った。新しいコレクションが増えた。


 美しい。

 私は満足した。

 次の作業だ。

 腹に刃を押し当てザクザクと切り開く。

 胃、脾臓、肝臓、腎臓、内臓一つずつ取り出す。

 女性はまだ生きている。胸が上下していた。

 しかし、もう長くはないだろう。

 私は心臓を取り出した。

 心臓はまだ動いている。鼓動している。

 美しい。

 私は、それに口吻をしバケツに入れた。

 

 その後も作業を続けた。

 すべてが終わるまで。

 彼女が完全に息絶えるまで。


 こうして、私の新しい人生が始まった。

 怪物としての人生が。

 救いはない。

 ただ、あるのは殺戮だけ。延々と続く殺戮だけ。

 それが、私の運命だった。

 あの夜、洋館に足を踏み入れた瞬間から。

 もう戻れない。


 私は怪物だ。

 この洋館、肉の家に住む怪物。

 これでいい。

 ここが私の居場所だから。

 ここで私は永遠を生きる。

 新しい獲物が来るまで。

 そして、獲物を殺すまで。

 延々と。永遠に。



【後日談】


 警察は、女の証言を元に山中の洋館を捜索した。

 しかし、何も見つからなかった。建物すらなかった。まるで、最初から存在しなかったかのように。

 ただ、行方不明者は増え続けた。

 誰も洋館を見つけられなかった。

 それは、まるで幻のように現れては消える。

 洋館は新しい出会いを待っている。

 あなたが道に迷ったとき。

 あなたが、山中で古い洋館を見つけたとき。

 決して中に入ってはいけない。

 そこは地獄。

 一度入れば、二度と出られない。

 

 出るには

 死ぬか。人間を捨てる。どちらかしか、ない。


 だから気をつけて欲しい。

 洋館を見つけても。

 決して、近づいてはいけない。

 それが、あなたの命を守る、唯一の方法だから。


(完)

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