【2-3】襲撃
それから数日間の、束の間の平穏が流れた。
和樹は仕事の合間を縫って毎日施設へ通い、あやめも少しずつ環境に慣れ始めていた。和樹は警察官として、あやめが出現した謎と護の失踪との関連性を非公式に調べ続けていた。
だが、手がかりは何一つ見つからない。焦燥だけが募る日々。
その日、和樹がパトロールを終え、署に戻ろうとした、まさにその時だった。
パトカーの無線が、ノイズと共に耳を劈くような緊急通報(EM)を告げた。
『警視庁より、本富士署管内へ緊急通報! 文京区・児童養護施設『ひだまりの家』にて、刃物及び銃器を所持した複数名の男による立てこもり事件発生! 人質多数! 至急、現場へ向かえ!』
和樹は、血の気が引くのを感じた。
(施設が……!? あやめ……! 社長……!)
「堂島!? どこへ行く!」
同僚の制止も聞かず、和樹はサイレンを最大音量で鳴らし、アクセルを床が抜けるほど踏み込んだ。
現場はすでに、おびただしい数のパトカーと野次馬、マスコミによって完全に包囲されていた。
和樹はパトカーを乗り捨て、規制線を強引に突破しようとした。
「おい、堂島! 馬鹿野郎! 生安のお前がここで何ができる! 邪魔だ、下がってろ!」
現場を指揮する所轄の刑事が、和樹の胸を突き飛ばす。
「うるさい! 俺はあそこの出身なんだ! あそこには、俺の家族がいるんだ!」
和樹が怒号を返した、その時。
重いエンジン音と共に、黒塗りの装甲車が猛スピードで現場に到着した。
『警視庁・組織犯罪対策局だ! 現場の指揮権を、我々が引き継ぐ!』
装甲車から、重装備に身を固めた屈強な隊員たちが次々と降りてくる。その先頭に立っていたのは、鋭い鷲のような目つきをした一人の男だった。
錦山 剛。
警察士官学校で和樹の一つ先輩だった男。当時はその冷徹さと実力主義から「鬼」と恐れられ、今はソタイ(組対)の中でも最も危険な任務を扱う特務課の隊長を務めている。
錦山は和樹の姿を認めると、一瞬だけ眉をひそめた。
「……堂島か。なぜ貴様がここにいる」
「錦山先輩! お願いします! 俺を突入部隊に加えてください!」
「何を馬鹿なことを。貴様は所轄の、それも生安の人間だ。足手まといになる」
「なりません! 俺はあの施設で育った! どこに抜け道があり、どこに隠し部屋があり、どの床が軋むか、全て把握しています! 必ず役に立ちます!」
和樹は必死に食い下がった。錦山は数秒間、和樹の目をじっと見つめた。その瞳は、和樹の覚悟の底までを見透かそうとしているかのようだった。
やがて、錦山は大きく舌打ちした。
「……チッ。時間の無駄だ。いいだろう、案内だけだ。絶対に俺の許可なく動くな。分かったな」
「はい!」
和樹は隊員から防弾ベストとヘルメットを受け取ると、突入部隊の最後尾に加わった。
「突入は裏の給食室からだ。そこの古いダストシュートが、地下の食料庫に繋がってる。そこからなら、犯人に気づかれずに社長室の真下まで行けるはずです」
和樹の先導で、錦山率いる精鋭部隊は音もなく施設内へと潜入していく。
和樹の記憶通り、施設内は迷路のように入り組んでいた。
(頼む……! あやめ……社長……! 無事でいてくれ……!)
祈るような気持ちで暗い廊下を進む。やがて、社長室の真下にあたる資料室へとたどり着いた。
錦山が天井に向かって特殊な集音マイクを当てる。
『……だから、金はもうすぐ用意できると言ってるだろうが!』
『うるせえな、ババア! おい! もう警察が来ちまってるんだ! ガキを盾にしてそのままズラかるぞ!』
『それだけは、絶対にさせん!』
社長の、芳江の声だ。
『チッ……面倒なババアだ……。おい、お前ら、そこの一番小さいガキを連れてこい! そいつを盾に使う!』
『やめろ! あやめに手を出すんじゃない!』
その声を聞いた瞬間、和樹は全身の血が沸騰するのを感じた。
錦山が冷静に、しかし鋭く隊員たちにハンドサインを送る。
「……突入する。三、二、一……今だ!」
お読みいただきありがとうございます!
もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 ページ下の【☆】マークから評価や、ブックマーク登録をしていただけると、作者のモチベーションがマッハで上がります! (感想もお待ちしています!)
★隔週で更新いたします!




