【2-2】陽だまりの記憶
その日の夕方。
施設の玄関が、にわかに騒がしくなった。
「おい、カズキ! どういうことだ! 護の娘が見つかったって、本当か!?」
息を切らして駆け込んできたのは、二人の男だった。
一人は、高校時代からの腐れ縁である元ヤンキーの武田。今は父親の運送会社を継ぎ、立派な社長になっている。
もう一人は、元学級委員長で今は市役所勤めの鈴木。真面目だけが取り柄の男だ。
「武田、鈴木……! お前ら、どうして……」
「芳江さんから連絡もらったんだよ! 仕事なんか放り出してきたわ!」
二人は、応接室のソファで芳江の淹れたお茶を飲んでいるあやめを見つけると、その場に釘付けになった。
「うわ……マジだ……」
武田が声を震わせる。
「護の奴にそっくりじゃねえか……特に、そのふてぶてしい目つきがよ……!」
「こら、タケ坊。怖がらせるんじゃないよ」
芳江に叱られ、武田は「うっす……」と小さくなる。
「護の奴、失踪したと思ったらどこぞで子供まで作ってたとはな……! 相変わらず行動だけは早い野郎だぜ!」
「それより、堂島。手がかりは? 護本人はどこにいるんだ?」
鈴木が冷静に尋ねる。
和樹は首を横に振った。駅での不可解な出現、あやめの記憶が曖昧なこと……全てを話すと、武田も鈴木も言葉を失った。
「……防犯カメラにも映らずに、トイレから出現……? おいおい、カズキ。それって本気で言ってんのか?」
「ああ。まるでSF映画か、ラノベの設定みたいだがな」
「ラノベ……」
武田が何かを思い出したように声を上げた。
「そういや護の奴、あの頃やたらと異世界転生もんのラノベ読み漁ってたじゃねえか! 『俺も異世界行ってチート能力でハーレム作るんだ!』とか、馬鹿みてえなこと毎日言ってたぞ!」
「…………」
和樹も鈴木も、その記憶を思い出し、顔を見合わせた。
まさか、あいつ……本当に……?
あまりにも非現実的な仮説。だが、目の前にいる「あやめ」という存在が、その仮説に奇妙なリアリティを与えていた。
その時、応接室の扉が再び開かれた。
「遅れましたー!」
駆け込んできたのは、雑誌記者の佐々木だ。彼女の手には、有名店の大きなケーキの箱が握られている。
「もう、武田から連絡あってビックリしちゃったよ! これが、あの護の!? うわー! カワイイ! っていうか、そっくり!」
佐々木があやめの前にケーキの箱を置く。
「あやめちゃん、だっけ? ケーキ、持ってきたよ! みんなで食べよ!」
それまで緊張で固まっていたあやめが、ケーキを見た瞬間、目を輝かせた。
「……けーき。たべて、いい?」
「もちろん! ほら、お皿持ってくるから待ってて!」
切り分けられた大きなショートケーキを、あやめは小さな口を精一杯開けて頬張った。
「んーーーっ!」
その顔が、幸せそうに綻ぶ。
そして彼女は、その小さな体からは想像もつかないスピードで一切れのケーキを平らげると、和樹たちに向かってキラキラした目で言った。
「……おかわり!」
その場にいた全員が顔を見合わせた。
武田が噴き出した。
「ブハッ! 間違いない! こいつは護の娘だ! あの馬鹿みてえな食いっぷり、護にそっくりそのままだ!」
鈴木も、佐々木も、芳江も、和樹も。
十二年分の不安と悲しみと諦めが、その一言で、温かい笑い声と共に溶けていくのを感じていた。
護本人の行方はまだ分からない。だが、止まっていた時間は、確かにここで再び動き出したのだ。
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