【1-3】ノイズ混じりの通報
受話器を取ると、ノイズ混じりの懐かしい声が耳に届いた。
『もしもし、堂島さん? 本富士駅の佐藤だけど、今、ちょっといいかい?』
「佐藤さん? どうも。どうかしましたか? また酔っ払いが暴れてるとか?」
佐藤は、護が失踪した本富士駅のベテラン駅員だ。彼もまた、護のことを弟のように可愛がってくれていた一人だった。
『いや、それが違うんだよ。今しがた、清掃員から連絡があってな。女子トイレの個室で、小さな女の子が一人で泣いてるってんだ。五歳くらいかなぁ……』
「迷子ですか。分かりました、すぐに――」
和樹がいつもの調子で「保護します」と言いかけたのを、佐藤が慌てたように遮った。
『いや、待て、堂島さん。それが、どうも様子がおかしいんだ』
佐藤の声のトーンが、真剣なものに変わる。
『うちの職員、誰もあの子が改札を通ったのを見てないんだよ。防犯カメラにも、一切映っちゃいなかった。まるで……まるで、あの個室の中に、いきなり現れたみたいなんだ』
ドクン、と。 和樹の心臓が鷲掴みにされたかのように大きく跳ねた。背筋を冷たい汗が伝う。
(あの駅の、トイレ……? いきなり、現れた……?)
十二年前の記憶が、鮮烈な痛みと共に蘇る。護の足取りが途絶えた、まさにその場所。不可解な状況。
『……堂島さん? 聞いてるか? それでな、その子の名前、一応聞いたんだが……』
受話器の向こうの声が、遠く感じる。和樹は受話器を握る手に、爪が食い込むほど力を込めた。
『――イワクラ アヤメ、ちゃん。そう、名乗ってる』
「…………え?」
和樹の思考が、完全に停止した。 イワクラ? 磐座? 護と同じ、あの珍しい苗字を、今、確かに言ったのか?
『……まあ、偶然だろうとは思うがな。ほら、堂島さん、昔あんたが必死に探してた、ダチの……』
「すぐ行きます!!」
和樹は佐藤の言葉を遮り、受話器を叩きつけるように置いた。デスクからパトカーのキーをひったくると、弾かれたようにオフィスを飛び出す。
「おい、堂島! カラスはどうしたんだ!」
田村の制止の声が背後で聞こえたが、今の和樹の耳にはもう届いていなかった。
(イワクラ……まさか……そんなはずがない……)
パトカーのサイレンを鳴らし、法定速度ギリギリで駅へと向かう。 期待か、恐怖か、自分でも分からない。ただ、心臓が肋骨を叩き破らんばかりに激しく鼓動していた。 十二年間、色褪せ、埃を被っていた「過去」が、今、目の前で無理やり抉じ開けられようとしていた
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