【5-3】平成7年の記録
翌日、午後一時。
大山は、本富士署の地下二階にある資料室分室にいた。
ここは、デジタル化の波に取り残された「署の記憶」の墓場だ。
黴と、古い紙の酸化した匂いが充満し、蛍光灯の明滅が薄暗い通路を不規則に照らしている。
(磐座 護の、ルーツ……)
大山は、埃を被ったスチール棚を片っ端から開け、「平成」の年号が記された重いバインダーの束を引きずり出した。
和樹が持っていた護の失踪資料は、不自然なほどに真っ白だった。
ならば、それ以前。
護がこの世に「磐座 護」として登録された、その「原点」を探るしかない。
護は今年で三十歳になる。ならば、三十年前。
平成七年(1996年)。
「……あった。『平成七年・身元不明者引継ぎ記録』……」
黄ばんだ和紙のようなページを、指サックをつけた指でめくっていく。
手書きの癖のある文字、掠れたハンコの跡。
だが、どれだけ探しても、「磐座 護」という名前は見当たらない。
「……おかしい。絶対に記録があるはずだ」
芳江社長は言っていた。『警察から預かった』と。
ならば、担当した警察官がいるはずだ。 大山は視点を変え、当時の「当直勤務日誌」の棚へと手を伸ばした。
ボロボロになった背表紙。
ページをめくる手が止まる。 平成七年、四月某日。
その日の夜間当直欄に、見覚えのある名前があった。
『夜間当直責任者:巡査部長 新崎 良夫』
「……崎先輩……」
大山の脳裏に、新米刑事だった頃の記憶が蘇る。
厳しくも人情に厚く、喧嘩の仲裁からカツ丼の食い方まで教えてくれた恩師。
とっくに退官し、今は奥さんと細々と駄菓子屋を営んでいると聞いたことがある。
大山は資料室の鍵を閉めると、行き先も告げずに署を抜け出した。
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