【1-2】消失点
その護が、高校二年の春、忽然と姿を消した。 まるで最初から存在しなかったかのように、煙のように消え失せたのだ。 最後に足取りが確認されたのは、学校帰りの本富士駅のトイレ。それだけだった。
和樹は半狂乱になって警察に駆け込んだ。 だが、対応した中年の警官は、面倒くさそうに小指で鼻をほじりながら、こう言い放ったのだ。
『あー、高校生だろ? どうせ家出だよ、家出。カノジョと駆け落ちでもしたんじゃないの? 大体、そんなデカい図体の男が誘拐されるわけないだろ。こっちも忙しいんだ。帰った帰った』
あの日の、警官の濁った目。 職務怠慢と事なかれ主義に染まりきった、腐敗した「正義」の姿。 和樹は、その場で誓った。
(俺が警察官になって、あいつを見つけてやる。そして、お前らみたいな腐った警官とは違う、本物の『正義』を執行してやる)
その一心で猛勉強し、身体を鍛え、エリートコースである警察士官学校にも合格した。 だが、現実は非情だった。
士官学校を卒業した和樹を待っていたのは、希望していた捜査一課や公安部といった花形部署ではなく、所轄の生活安全課という「窓際」だった。 護の失踪は、早々に「事件性なし」として捜査を打ち切られ、成人した今となっては「失踪者」として扱われることすらない。 和樹は職権を濫用し、あらゆるデータベースにアクセスして護の行方を追い続けた。だが、十二年間、何一つ――本当に、塵ひとつの手がかりさえ掴めなかった。 護の戸籍は、生きても死んでもいない「空白」のまま、ただ無情に時間だけが過ぎていった。
「堂島さん、ちょっといいか?」
思考の海に沈みかけていた和樹を、現実へ引き戻す声がかかった。同じ課の先輩、田村だ。彼は和樹のデスクに、新たな「雑務」の束を放り投げた。
「これ、駅前の商店街からの苦情な。カラスがゴミを漁って酷いからなんとかしろってよ。お前、今日見回りだろ? ついでにやっといてくれ」
「……カラスの駆除、ですか? それは、警察の仕事じゃ……」
「いいから行けよ。どうせ暇だろ、士官学校卒のエリート様は」
田村は隠そうともしない嘲笑を浮かべ、自分の席へと戻っていく。 和樹は無言で書類を掴み、立ち上がった。
(ああ、そうだ。どうせ俺は、カラス退治がお似合いの窓際警官だ)
自嘲が、苦いコーヒーと共に胃の底へ沈殿していく。 その時だった。 デスクの内線電話が、けたたましく鳴り響いた。
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