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『Returnees』〜残された世界と、帰還した「親友の娘」〜  作者: NewSankin


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【3-5】鳳凰の間と、終わりの音

パーティー当日。

鈴木が手配してくれた、老舗ホテルの宴会場『鳳凰の間』は、和樹の想像を遥かに超える、熱気に包まれていた。空気が厚い。笑い声が、床を揺らしているようにさえ感じる。


「おう、カズキ!久しぶりだな!」

「堂島君、大きくなったねぇ」


集まったのは、総勢20名以上。高校時代のクラスメイト、部活の仲間、お世話になった先生方、施設の関係者、バイト先の仲間、護を一方的にライバル視していた他校の番長まで、ありとあらゆる「磐座 護」にゆかりのある人々が、ごった返していた。


「…あいつ、本当に、どれだけの人に好かれてたんだよ…」


和樹は、改めて、親友の人望の厚さに舌を巻いた。人は一人で生きているようで、誰かの記憶にぶら下がって生きている。


主役のあやめは、佐々木からプレゼントされた、最新の仮面ライダーのコスプレ衣装(子供用)を身にまとい、ご満悦だった。特に、精巧に作られた仮面がお気に入りのようで、会場中を「へんしん!」と言いながら走り回っている。


「あやめちゃん、カワイイ!」

「護の小さい頃より、行儀がいいな!」


大人たちは、その姿に、護の面影を見出し、誰もが幸せそうに目を細めていた。笑いは、痛みを少しだけ薄める。けれど、消してはくれない。


そんな中、和樹は、高校時代の恩師である、白髪の初老の男性に捕まっていた。


「堂島。お前も、そろそろ身を固めんか」

「え?いや、先生、急に何を…」

「今のお前は、あの子にとって、立派な『父親』だ。それは、素晴らしいことだ。だがな、堂島。あの子は、女の子だ。これから先、父親おとこには相談できない、様々な悩みにぶつかる時が、必ず来る」


恩師は、和樹の肩を、優しく叩いた。


「…あの子には、『母親』が必要だ。お前が、本当にあの子を守り、育てるというなら、お前自身も、幸せにならんといかんぞ」


その言葉は、和樹の心の、一番柔らかい場所を、静かに、しかし強く、打ち抜いた。


(母親、か…)


考えたこともなかった、現実。育児とは、ただ飯を食わせ、風呂に入れるだけではない。和樹は、その言葉の重みに、ただ黙り込むしかなかった。言い返せないのは、図星だからだ。


そんな時だった。


「あ!タケおじちゃんだ!」


仮面をつけたあやめが、いち早く気づき、窓の外に向かって、小さな手を力いっぱい振った。


パーティー会場は、二階。窓からは、ホテルのエントランス前の交差点が、よく見えた。

武田が、臨月で、歩くのも辛そうな明美の手を引きながら、こちらに向かって手を振り返している。


「わりぃ、遅れた!」


武田が、口パクでそう言っているのが見えた。


青信号が点滅を始める。武田が、明美を気遣いながら、急いで横断歩道を渡り始めた、その時だった。


「あっ…!」


明美が、苦しそうな顔で、その場にうずくまってしまった。どうやら、急に産気づいたらしい。


「明美!しっかりしろ!」


武田が、慌てて明美を抱きかかえようとする。


その間に、信号は、無情にも赤に変わってしまった。


キィィィィィィィッ!!!


甲高いブレーキ音。

一台の軽トラックが、脇道から、猛烈なスピードで交差点に突っ込んできた。運転手は、明らかに居眠り運転をしている。

トラックは、横断歩道の真ん中で動けない武田夫妻に向かって、一直線に突っ込んでくる。


「武田っ!!」


和樹が絶叫する。会場の窓にいた全員が、息を呑んだ。

和樹は、窓を突き破って飛び降りようとするが、二階からでは、どう考えても間に合わない。

武田も、明美を庇うように抱きしめ、絶望に顔を歪ませた。


全てが、スローモーションに見えた。

トラックが、二人を轢き殺す、まさに、その瞬間。


和樹の視界の端を、小さな、赤い影が、信じられないスピードで駆け抜けていった。

あやめだった。

彼女は、パーティー会場の窓ガラスを突き破り、空中で美しい回転を見せると、迫り来るトラックの側面に向かって、その小さな足を、一直線に突き出した。


「ライダーーーーキーーーーーック!!」


ゴッッッッッ!!!


5歳の少女の蹴りとは思えない、鈍い、重い破壊音。

猛スピードで走っていた軽トラックが、まるで鉄屑のオモチャのように、いとも簡単に、数メートル先まで「く」の字に折れ曲がり、横転した。


宴会場の喧騒が、嘘のように静まり返る。

ホテル前の交差点。

横転し、白煙を上げるトラック。

呆然と立ち尽くす、武田夫妻。

そして、仮面ライダーのキックのポーズを決めたまま、ゆっくりと着地する、5歳の少女。


和樹は、自分の最大の悪夢が、最悪の形で現実になったことを悟った。

日常が、終わりを告げた音が、確かに聞こえた。

お読みいただきありがとうございます!


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