【3-3】明日が、鳴った
和樹のスマホが、仲間たちで作ったグループメッセージの通知を告げた。発信者は、武田だった。
『なあ、お前ら。護の七回忌…じゃねえけどよ、あいつのこと、みんなで思い出さねえか?あやめの歓迎会も兼ねて、護にゆかりのある奴ら、全員集めて、でっかくパーティー開こうぜ!』
その提案に、真っ先に食いついたのは佐々木だった。
『賛成!なにそれ、超楽しそう!連絡網なら私に任せて!当時のクラスメイトから先生、バイト先まで、全員引っ張り出してくるから!』
鈴木が、冷静なツッコミを入れる。
『佐々木、あまり騒ぎすぎると、会場に迷惑がかかるぞ。場所は、俺が押さえておく。予算は、武田持ちでいいな?』
『おうよ!任せとけ!』
トントン拍子に話は進み、パーティーは三日後の日曜日に、鈴木が手配したホテルの宴会場で行われることになった。和樹は、その速すぎる展開に苦笑いしながらも、あやめが多くの人に愛されていることを感じ、胸が温かくなる。温かさには、油断が混じる。油断は、いつも代償を連れてくる。
(護…見てるか。お前の娘、すっかりアイドルだぞ)
そんな、平和なやり取りをしていた、その時。
和樹のスマホに、知らない番号からの着信が入った。非通知ではない。登録もされていない、警視庁の内部回線の番号だった。妙に現実的な数字の並びが、胸の奥を嫌な手つきで撫でた。
胸騒ぎを覚えながら、和樹は通話ボタンを押す。
「…堂島だ」
『…俺だ。権藤だ。覚えてるか?』
権藤。
その名前に、和樹の背筋を冷たいものが走った。
権藤 一。
警察士官学校の同期。だが、和樹のような落ちこぼれとは違う。彼は、科学捜査研究所――科捜研に配属された、正真正銘のエリートだ。学生時代から、他人を一切信用しない、冷徹なまでの合理主義者として知られていた。
なぜ、今、その権藤が、俺に? ――その疑問が浮かんだ瞬間にはもう、嫌な予感が答えを連れてきていた。
「何の用だ、権藤。俺とお前が、馴れ合いで電話するような仲だったとは、記憶にないが」
『相変わらず、ひねくれた言い方しかできんのか、貴様は。…単刀直入に言う。例の、お前が保護したっていう、身元不明の女児』
「…!あやめが、どうかしたのか」
『――磐座 アヤメのDNA鑑定の結果が出た。それについて、お前に、直接話したいことがある』
和樹の心臓が、氷水に浸されたかのように冷たくなった。
DNA鑑定。それは、あやめを保護した際、和樹自身が「身元確認のため」と称し、公式に申請したものだ。護の娘であるという確証を得るため、そして、万が一、護の親族が国内にいれば、という淡い期待を込めて。
だが、それは同時に、あやめの「異常性」が、国家のシステムに登録されるリスクを伴う、諸刃の剣でもあった。自分の手で刃を握った感触が、いまさら掌に戻ってくる。
(まさか…!あやめの力が、バレたのか!?)
施設での立てこもり事件。あやめの異常な力。鑑識の御子柴は、和樹の頼みで「証拠不十分」として処理してくれたはずだ。だが、もし、あの時の血液サンプルや、現場の残留物が、科捜研に回っていたとしたら…?
想像が、いちばん最悪の絵を描く。描いた途端、現実味が出る。これが嫌だ。
『…どうした、黙り込んで。明日、会えんか?場所は、俺が指定する』
権藤の、感情のない声が、和樹の焦燥を煽る。断れば、余計に怪しまれる。逃げ道はない。逃げるほど、追ってくるのがこの世界だ。
「…わかった。場所は、お前が指定するんだな。…会うよ」
『ああ。場所は、明日の朝、連絡する。…それじゃ』
ツーツー、と、無機質な通話終了音が響く。
和樹は、スマホを握りしめたまま、動けなかった。背中には、滝のような冷や汗が流れている。寒いのに、汗が出る。体が、危険を理解している。
「おじさーん、みてー!」
あやめの、能天気な声。
ハッと我に返ると、あやめが、テレビに夢中になっていた。画面の中では、仮面ライダーが、必殺キックで怪人を爆発させている。
「いまの、かっこよかったね!」
「あ…ああ、そうだな…」
(護…お前も、仮面ライダーが、好きだったな…)
親友の面影と、得体の知れない脅威。
平穏な日常は、音を立てて崩れ始めている。和樹は、ただ、迫り来る「明日」の恐怖に耐えることしかできなかった。耐えるしかない、という現実がいちばん重い。
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