第九十六話 最後の会話
何も考えられず、思考が消えたまま、マグヌムは動き続ける
体を、拳を、立ちはだかる、クラルスへと向けて
「............ て」
「......... まれ」
「待て!止まれ!」
「止まれ!動くな!僕は、僕は殺すために産まれてきたわけじゃない!」
マグヌムの精神の言葉が、肉体へと響いた
マグヌム・バッハルではない、もう一つの精神
本来の精神が、マグヌムの体の動きを止める
抵抗し、反抗し、マグヌム・バッハルという悪が動かしたこの体を、停止させ、全身の力を外へと流れ出させていく
そして、意志を失ったその体は、地面に倒れ、目的を、目標を、その全てを忘れ去った
メミニが産み出した、その楽器の効果によって
メミニが作り出した、金管楽器であるトランペット
左の手でトランペットを構え、右の手を軽くピストンに乗せる
マウスピースを咥え、音色を奏でる準備は整った
目をつむり、防御の構えをしているクラルスの耳に、直接影で耳栓を作る
そして、肺から空気を流し、トランペットへと空気を送る
そう、幻楽器を吹き、音を奏でた
空気を震わせ、マグヌムと、それ以外の幻想局にも、精神の底まで響き渡る、その音色
肉体が忘れていた、精神が再び浮き上がる
今の、支配していた精神を沈めて
「マグヌム……やはり君は、僕ではない」
「……いいや、違うね
僕は…バッハルは…誰が何と言おうと、マグヌムだ」
最後の、マグヌムの会話
バッハルという二つ目の精神と、沈みながら足掻き続けた一つ目の精神が、誰も知らないその肉体で、今までで一番平和に、言葉を交わしていた
「子供のまま、ずっと沈んでいたはずの君が、成長したのは僕のおかげだ」
「…たとえ、そうだったとしても
それは、僕にとっては苦しみだった
善意を忘れた君のように、自分の事しか考えていない
それは、マグヌムではなく、人ですらない……ただの、化物だ」
目に見えるはずがないバッハルの表情が、曇ったことを直感的に認識した
肉体へと浮かび続けるマグヌムは、バッハルに向けてさらに言葉を付け加える
「目的のために手段を選ばないのは、ルダスらしい
無責任な科学者に言われた、"止める"という言葉
君が、それを酷く嫌っていたんだ
精神のトラウマになるほどに」
「……そうだ、止める
なぜ止める?何を止める?
…僕という最高の音楽家は、世界に一人でいい
同等の存在はいらない
僕こそ、世界最高で、最後の指揮者に相応しい
そう、だったろう?
……マグヌム」




