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第九十三話 冷酷な怒

──自分は、メミニと共に走っていた


キャピオと別れ、マグヌムの精神を戻すため、劇場の通路を走り入口を抜ける


そして、幻想的な空に照らされながら地面を歩く


何も言わずに歩き続ける隣のメミニも、どこか不安そうな顔をしているのが見てとれた



そして、やっと、マグヌム達のいる所へと戻ってきた



だが、そこには、見るも無惨な光景が広がっていた




意識を失ったまま動かない、二人の義兄

残り一人は、幻想局の三人から蹂躙され、顔が異常なほどに膨らみ、染まっていない場所がないほどに全身が血で包まれ、右の腕に至っては肩から下が身体と離ればなれになってしまっていた



... 現実で、あんな光景を見てしまった時、自分は無事でいられるだろうか


体が拒絶し、胃から内容物が逆流してしまうかもしれない

恐怖で逃げ出すかも、絶望でその場にうずくまるかもしれない



だが、ここは幻想の世界だ

感情は抑制されている


だが、抑制されてなお、強い感情というのもあるのだ




怒りという、復讐のための、強い感情が



「... クラ... ルス...... に...... げ...............」

クラウィール義兄さまが、自分を見て言った


満身創痍で、意識もはっきりしないまま


自分を助けようと、自身の事を省みないような柔らかな顔で


そう、自分に伝えた瞬間、義兄さまの意識は無くなった


死んでしまったかのようにそっと、静かに目を閉じて



「...... 義兄さま」



... 自分は、もしかしたら冷たい人間なのだろうか


尊敬していたクラウィール義兄さまが、目の前で意識を失い、生きているかどうかも怪しい状況で、



... 自分は、マグヌムに対する怒りしかない

悲しみも、虚しさもなく、燃え上がるような、むせ返るような、復讐心



感情が強まり、息も絶え絶えになりながら、動こうとする体を、精神力で押さえ込む



... そうか、自分は、

マグヌムに怒っているのか



悲しむよりも、恨むよりも先に


人を殺し、支配下に置き、世界を滅ぼす計画を立て、自分がいないとすでに決行されていたであろう、最悪の行為

そして、最も尊敬する義兄さまの尊厳を踏みにじった



それに、とてつもなく大きな怒りを覚えているのだ


それを認識した時、自分の目に写っているのが、クラウィール義兄さまを足蹴にし、ボロボロの体で指揮棒を握りしめている、マグヌム・バッハルただ一人だと気がついた


それ以外は目に入らず、マグヌムただ一人を自分は眺めているのだと


そして、怒りに包まれ何も考えないまま、抑えていたはずの左足を踏み出した



殺意と呼ばれる力を握りしめ、何が起きるかも分からない、幻想局の会場へ

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