第八十八話 やり過ぎた
「っ......!な、なんで、なぜ死なない!」
ティンパニを奏でている中、イーデムの顔には焦燥が溢れだしていた
年端もいかない少年のような、だが同時に妖しさを漂わせている、夢や幻でも出会えぬようなそんな奇妙な存在と対峙し、イーデムは心から苦しんでいた
焦り、怒り、ティンパニのテンポは、気付かぬ内に上がっていく
「お前は、楽な相手で良かったよ」
割れた空気の穴を避け、グローリアはイーデムへと近づいていく
ティンパニを、感情が荒れマグヌムのオーケストラなど耳に入らず内に、激しく打ち続けた
だが、そのような雑な攻撃がグローリアに届くはずもなく、その一切を避け続ける
そして、間合いにたどり着いた時、グローリアはイーデムの首に剣を当てた
「っ......!」
死ぬ、それが目の前に迫っている
しかし、イーデムには恐怖が無かった... いや、正確には押さえつけられていた
幻想の世界そのものに感情を抑え込まれ、まるでそれが当たり前かのように、抵抗する気力もなく、その首を、差し出した
自分がいなくても問題ない、マグヌムさまなら夢を叶えてくださると信じて
「...... 少し、やり過ぎたな、イーデム」
総奏だと、そのために許されていた自由が、管弦楽の音楽と共に響いたマグヌムの声と共に、再び支配の奏者へと引き込まれた
その瞬間、イーデムはティンパニに向けてマレットを振り下ろした
グローリアですら反応する隙もなく、その音はグローリアの体内に向けて動き始める
「...... そうか、自由だな」
察知したグローリアは、すぐさま後ろへと下がり難を逃れ、イーデムに対してそう呟く
果たして、誰に対してそう言ったのかは分からない
だが、グローリアの目先にいる標的は、新たな男へと変更されていた
マグヌムという、全身が砕けながらも指揮を続ける、狂気の男へと...




