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第八十七話 驚異的

「... っ!耳を塞いでいるのに、ここまで響くのかっ!」

グローリアの体に、オーケストラの振動が響く


耳への音は防いでいるが、空気の揺れは体に直接響き渡る

防ぎようのないそれは、たとえ聞いていなくても最高だとわかるかのように、全身から鳥肌が立っていた



「マグヌムさま、始めましょう、最強の総奏を!」

イーデムはそう言うと、腰の小さなポケットから大きさの合わない身長の半分ほどの幻楽器を取り出し、それを構えた


それを見て、先ほどの操られている様子はすでになく、自分の意思でそのような行動をしていると、グローリアはすぐに理解した


ティンパニのようなそれを、地面に降ろしてマレットを手に持つ


そして、マグヌムの奏でる音楽に合わせて、音を震わせ始めた



一発一発叩くごとに、グローリアの周囲では空気に亀裂が入り、様々な方向から突風と吸引が押し寄せてくる

クラルスが受けたヴィブラスラップの威力には程遠いが、それでもグローリアの動きを制限するには十分だ



「... これが、空気を割る力ね」

体が宙に浮かび、腕と足が全く違う方向に引き寄せられる


自身に直接命中せぬように避け続けるも、周囲を固められた状態では微々たる差であった

剣を地面に突き立てるなどして、なんとか耐えていたものの、それでもいつかは直接巻き込まれ、体内の空気が割れて体ごと爆発してしまうだろう


そんな、絶望的な状況の最中、グローリアの目、そして口には、ほんの少しの笑みが籠っていた



「... なるほどね」

そう呟くと、グローリアはまずイーデムへと視線を移す


イーデムの視線、そして手の動き、それらを同時に処理し、次の攻撃が来るであろう地点を予測する



右にくると分かったなら左へ、前なら後ろへ、こちらを直接見た場合、グローリアは高くへ跳んだ


イーデムの一挙手一投足を一瞬の内に認識し、聴覚を封じられた状態で相手の攻撃を躱しきる


およそ人間とはおもえぬ動き、そして判断能力

グローリアという人物の、その驚異的な潜在能力は、何かをするまでもなく、ただ息を吸うように、当然のように体に染み付いていた




... 遺伝とは、恐ろしいものだ

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