第八十六話 最高の指揮者
──いったいどれだけの時間が立っただろう
短い、しかしとても長く感じる
クラウィールは、マグヌムの攻撃を捌き、倒れたウィルスールの剣を拾い、なんとか戦っていた
周りを見る隙もなく、一切の音が聞こえない状況で、目の前の男に集中していた
だが、それもすぐに終わった
演奏が終わったのか、スペクラートは指揮棒を腰に納め、突然クラウィールに向かって走り出す
拳を握り締め、腕に力を込めながら
クラウィールはそれに気がつく余裕もなく、一方的に横から大きな衝撃を響かせた
吹き飛ばされるような、いや、実際に横向きに吹き飛ばされ、少しの間空中を飛ぶ
そして、地面に転がり、持っていた剣も弾き飛ばされた
「かはっ...!」
なんとか体を動かし、マグヌムとスペクラートの様子を見ると、スペクラートは武術のような構えを取り、マグヌムは腰から指揮棒を取り出していた
... そして、マグヌムが、指揮棒を動かし始める
そこへは、スペクラートと同じように音が集まり、混ぜ合わさり、重ね合わさった
クラウィールとグローリアには聞こえていないだろう
だが、そこからは、どこよりも、誰よりも美しく、素晴らしい演奏の指揮をする、マグヌムの姿があった
荒々しく、猛々しく、しかして美しい、狭く巨大な管弦楽、ただの少しのずれもなく、楽器の全てをその手で動かす
誰もが魅了され、離れる事が出来なくなるような、世界一であろう指揮者による最高のオーケストラ
それにより、イーデムも、スペクラートも、動きを止めた
感動、感激、涙を流すほどに、心を揺さぶられる
マグヌムの理想を体現するその音楽は、今初めて演奏されたにも関わらず、聞く者、そしてマグヌム自身の心に一生涯刻まれるであろう
それほどの音楽によって、二人の体は動き始めた




