第八十二話 嫌う過去
──いつからだろう、私が、話せなくなったのは
いつからだろう、私が、"音楽を諦めた"のは
ルダスに生まれ、私は音楽家の父の息子として過ごした
生まれた時は裕福な家庭で、私もルダスらしく、生きていた
そして、父の影響で様々な音楽に触れる機会もあった
その中でも、父の音楽は素晴らしかった
他の者では創れないような、心に訴えかけてくる、魂が震えるような音楽
私は、そんな父がなによりの誇りだった
だが、父の音楽に評論家達は見向きもしなかった
心に訴えかける音楽よりも大事なものがあると言い、そいつらが選んだのは、誰でも創れるような、単調で動きのない平面な音楽だった
評論家どもに苦言を呈しても、正当に評価された結果だと言う一点張りで、そのまま追い返されてしまうばかりだ
何度試してもそれは変わることがなく、いつしか父は、疲弊しきって家で倒れてしまった
かなり衰弱していたらしく、こんどこそ、こんどこそ、と続けている内に、食べ物も睡眠も削って、いつしか精神も肉体もボロボロになっていたらしい
もちろん、すぐに病院に連れていった
ルダスの技術があれば、父はすぐによくなるはずだと、そう思っていた
だが、現実は残酷だ
何に対しても、合理的な考えで物事を進めるルダスの民は、だれも父を救おうとはしなかった
病院すらも父を追い返し、それでも私は、必死で父の看病を続けた
だが、父は日に日に喉が細くなり、寝たきりで骨が浮き出るようになった
私はプライドを捨て、父を見捨てた者に父を治して欲しいと頼み込んだ
だが、頭を地面に擦り付けてもその者達は振り向くことなく、私を空気のように扱ってどこかへ向かっていった
そうだ、その時からだ
私が、ルダスを恨み始めたのは
そして、数日後に父は亡くなった
呆気なく、私の目の前で最後まで言葉を紡ぎ、息を引き取った
私は、父を貶めた音楽そのものにも恨みを募らせ始め、音楽に関わる全ての物を処分した
そして、音楽に関わる全ての縁を断った
それから月日は流れ、私は研究所の隅で無気力に過ごしていた
ルダスそのものを嫌いながらも、生きるためだけに仕事をこなす毎日
私は、そのうち言葉を失っていた
民との会話も嫌って、いつしか話すこと事態がなくなっていたからだ
そんな、周りを嫌いながら生きていた、縛られた日々
そんな日常を過ごしていると、目の前にとある男が現れた
男はマグヌムと名乗り、とある提案を出してきた
「君はルダスが嫌いだろう?
こんな所から離れて、私の目指す未来の手助けをしてくれないかい?」
…言葉が、出なかった
困惑は無かったが、その言葉を訝しむには、それはあまりに魅力的すぎた
突然のことで言葉を出すことが出来なかったが、その後、私はその提案を飲んだ




