第八十一話 嫌いなお前
──結果として分かったことは、メミニの力で幻楽器の効果を再現するには、それを、メミニが一度視認する必要がある
たとえ効果を見なくとも、物そのものを見ればなんでも可能らしい
そして、その条件をメミニは、確実に達成していることが分かった
カタコトでも聞き取れた内容として、メミニは、惹かれるがままにあの時の小屋に入り、そこにあった全ての幻楽器を視認していたらしい
それを証明するためか、影から、自分の知っている幻楽器から知らない幻楽器までを、実に五十を越える数だけ再現して見せた
そのうち少しを奏でてみたが、どれも効果を発動させるのに問題は無さそうだった
なぜ視認するだけで幻楽器を再現出来るのか、どうして効果までも再現出来るのか、など謎は尽きないが、今はマグヌムに幻楽器を聞かせる事が最優先だ
「ありがとう…メミニ…
……急ごう」
そうして、二人で通路を走り始めた
…同時に、上から巨大な物音が聞こえた
なにかが破壊されているような巨大な音、そして、こちらに迫ってきているかのように、だんだんと音は大きくなっていく
自分達は走っていたが、迫ってくる音に反応してゆっくりと足を止めていた
その正体ははっきりとは分からない
だが、クラルスにとって、それが確実な不利益をもたらす物であるという確信があった
音が、ついに、間に一枚挟んだだけの天井まで迫ってきている
そして、それが破られた
「……私は、お前が嫌いだ、クラルス」
いままでに見せたことがない、感情を表に出したその男は、先ほどとはかなり印象が変わっていた
髪が崩れ、服も汚れと破れでボロボロだ
そしてなにより、その表情には、憤慨と嫌悪が色濃く塗られている
しかし、クラルスがその男を見間違えるはずもない
「キャピオ……」
ここまで身を削りながら、自分を追いかけてきたとでもいうのか?
いや、それよりも、どうやってあの反重力を乗り越えたのだ?
「私は、ルダスが嫌いだ
目的以外を忘却し、機械のように縛られる者の巣窟が
私は、幻が嫌いだ
理想を写し、同時に絶望を与える偽物の夢が
私は、お前が嫌いだ
人の身で、足掻き、邪魔をする、今すぐ消えなければならないその存在が
そして、私はこう唱える」
空気が重くなる
世界が、キャピオに応えるかのように、動き始める
ただし、そこには声以外の一切の音が無かった
「メミニ─と」
キャピオがそう言った瞬間、キャピオの表情はまた新たなものへと変わった
思い出したくもない過去を、見つめ直し始めた時のような、複雑で絡み合った表情が、その顔を埋め尽くした
「…そうだ
私が、ここにいるのは…」




