第八十話 助け、恐れ
振り下ろされた剣、それを見届けるのは、紛れもないクラウィールだ
(……あ……あれ?)
クラウィールを避け地面に当たった剣は、赤い土を空へと舞いあげ、ウィルスールと共にその場へ倒れ込んだ
「…ふぅ、危なかった」
ウィルスールの隣に立つのは、グローリア義兄さまだった
先ほどの指揮棒が止まっていた一瞬の間に、耳に土を詰めて音を遮断したグローリアが、持っていた剣でウィルスールの剣の軌道を反らし、最悪の事態を事前に防いだ
「音…クラルスから聞いといて助かった」
少し唖然としながらも、複雑な気持ちを抱きながら、義兄さまに感謝を伝えた
…もちろん、感謝はあった
だけど、この感情はなんだろう
まるで、獣の相手をしているような、この義兄ならいつ、なにが起きてもおかしくないと思えるような嫌な気持ち
もしかして……僕は恐れているのか?義兄さまを?
勘だけで相手の力を無力化し、助ける余裕までも生み出す、この人を、
「ほら、これで問題ない」
グローリアは、クラウィールの耳にも土を詰め込み、ほとんどの音を遮断した
コミニュケーションがとれなくなったとはいえ、体の支配権を取り戻し、自由に動き回ることが出来るようになったのは、少し懐かしい感覚がする
「……清聴出来ぬのならば、お還り下さい」
自由に動けるようになったのも束の間、動きを止めていたはずのイーデムが、幻楽器片手に走ってきた
だが、それはイーデムの意思ではなく、先ほどの僕と同じように、スペクラートに操られているように見える
武器に手を当てる
その瞬間、新たな気配が横から迫ってきた
咄嗟に後ろにのけ反らなければ、確実に僕の頭を潰したであろうその拳、それを出したマグヌムも、操られるように見えながら参加してきた
…僕と義兄の間では、僕の方が実力は上だ
ならば、僕が狙うのは、
マグヌムに向かってクラウィールが駆け出す
それを見届け、グローリアは迫ってくるイーデムに向かって剣を構える
壮大なオーケストラが響き渡る中で、先ほどとは異なる敵と相対する四人
ほぼ同等の戦力で、手数を駆使する幻想局に、特別な勘を持つグローリア
この戦いが自然と終結するためには、果てしない時間が必要だろう
疲労も痛みも知らぬ者達、それが続くのは必然だ
…ただし、互いに集中していた場合に限るが




