第七十五話 義兄達の戦
──一進一退の激しい攻防が繰り返される中、ウィルスールは気がついた
疲労がない、そして痛みがないということに
これならば、確かに動き続けることは出来るし、マグヌムがボロボロになった腕でも、全力で殴ることが出来たのにも納得がいく
元の世界では考えられないが、そんな無駄な事を考える余裕はないので、この世界はこういうものだ、そう割り切って、目の前の戦いに集中する
先ほどから、マグヌムの拳を避けると同時に、相手の腕に向かって刃を振り下ろす
だが、そのほとんどが届くことなく、命中しても対した威力は出なかった
…隙がない
隙どころか動きを正確に把握することすら難しい
拳は単調な攻撃で、かなり避けられるようになってきた
だが、そこに蹴りを混ぜてくることがあり、そうなれば、攻撃の余裕が消え去り、避けるしか出来なくなる
これが、人生で初めての実戦であり、経験差もかなりある状態、それに加えて、相手は制限無く動き続けている
こんな相手、本当に勝てるのだろうか
…いや、勝つしかない
クラルスも一人だし、義兄さん達も必死で戦っているのだ
俺も、俺のやるべき事をやらなければ
だが、このまま耐久していてもいつまで持つか分からない、実際、体の一部が限界を超えて動かなくなりそうになっている
休む暇もなく、ただ相手の攻撃を受けるのみ
せめて、一度でも本気の一撃でも与える事が出来たなら、相手の行動を封じることは出来ると思う
そのために出来ることは……
…そうだ、思い付いた
「義兄さん!来てくれ!」
二人とも余裕がないのは分かっている
だが、これをすれば相手の戦力を大きく削ることが出来るはずだ
─クラウィールは木刀で、イーデムの楽器を弾き返した
そして、体の方向を変えて一直線にウィルスールの元へと向かう
グローリアも同様に、スペクラートの攻撃を押し返す
だが、楽器ではなく指揮棒のような鉄の棒を使っていたスペクラートは、グローリア相手に一切の隙を見せなかった
そして、押し返されたはずのスペクラートだったが、やはりというべきかすぐに体勢を立て直し、グローリアの後退を許すことがない
「はぁ…、無理そうだ!ウィルスール!」
グローリアは大声でそう叫ぶと、すぐさまスペクラートとの戦いに戻っていく
ただの鉄の棒を扱っているはずの相手が、剣を持つ自分と一切引けを取らない実力を持っている
そこへ、無表情、無言、一方的という要素が加わり、さすがのグローリアでも動揺を隠せなかった




