第七十二話 落下
メミニがヴィオラを弾いた
その音色に完全に気を取られた、自分とキャピオ
だが、一瞬にしてその集中は別の方向に向いた
「うっ……浮いて…っ!」
「…オチル!」
体が空中に投げ出された
空を飛んでいるわけではなく、足が、体が、上に向かって落ちていく
まるで崖から飛び降りた時のように、自分たちは劇場の天井に向かって落ち続けている
「うぁあっ!」
すでに、客席の椅子や、舞台にあった楽器、譜面台などが天井に向かって落ちている
近づくにつれ増えていく、大量の衝突音や破壊音が、落ちるという自分の中にある恐怖を、簡単に大きく膨れあげさせていた
「クラルス、ツカマル」
手を伸ばしてきたメミニの、体を回して必死にその手を掴んだ
その瞬間、周囲が暗闇に包まれる
死んだのか?という疑問はすぐに解決した
体が動きまわり、天井にある壊れた椅子や楽器の上を、自分を包み込んでいる球体が衝撃を収めながら停止した
戸惑っていると、すぐに包み込んでいた暗闇がなくなっていることに気がつく
そして球体が影へと変化し、そのうち先ほどのメミニと同じ姿になった
「あっ……メミニ、助けて…くれたの?」
メミニはコクりと頷き、ぎこちない笑顔を見せた
「ダイジョウブ、ヨカッタ」
そうして自分は腰をあげ、天井だったはずの地面を見回す
…周囲には、壊れた木材や飛び出した木綿が散乱しており、椅子や譜面台などは、形が残りながらも元の姿とはかけはなれているのが見て取れた
幻想種達の姿は消えており、恐らくほとんどが影に戻ったのだろう
幻楽器にいたっては原型を留めているものが少なく、もはや、ただの材木と化しているものも多かった
「これが、メミニが奏でた幻楽器の…」
幻楽器、つくづく恐ろしい道具だ
こんなものが現実で使用されたら、被害はとてつもないことになっていただろう
それがオーケストラに使用される楽器の数だけ…
能力にもよるが、世界の破壊など容易そうだ
だが、幻楽器のほとんどが今の落下で破壊された
ここまでするつもりは無かったが、世界の破壊を阻止できたと考えると、致し方ない犠牲として割り切ろう




