第七十一話 影の幻楽器
自分が振り返った瞬間、キャピオが地面を蹴り、自分とメミニに向かって跳んだ
そして、前回同様の鉤爪のような軌道を描いた腕が、メミニの首を捉える
「っ!メミニ!」
叫んだところで何も出来ず、メミニの首にはすでにキャピオの魔の手にかかっていた
キャピオは、メミニの首を掴み、そのとてつもない握力で、メミニの細い首を圧迫する
メミニが痛みに悶える様子はないが、苦しまぬ方がおかしいほどに潰されている
その様子を見ていると、いつの間にか足の動きも止まっていた
そして限界まで潰された時、頭が破裂すると同時にメミニの首から黒い血のようなものが吹き出した
血のようなものはすぐに霧となり、影となって地面へと沈んでゆく
困惑していると、メミニの首のない体が前方に倒れ込んだ
そして、地面にたどり着いたと同時に地面から影が生まれ、首の部分を新たに作り出した
「……え?…メミニ?」
「ア…アァ……ウゥ…イ…タイ…」
痛みを感じている、のか?
起き上がろうとしながらも、その顔には苦悶の色が浮かんでいる
首を握った状態で静止しているキャピオの前に、立ち上がったメミニが迫る
「……カナデ…ヨウ」
そう言うと、メミニの腕から影が膨らんだ
影は形を形成し、色が浮き出る
そのうち、ヴィオラのような外見へと影が変化した
外見上はなんの変哲もないただのヴィオラ、だが、それから感じた気配は、ただの楽器とは到底言えない程の恐ろしい気配だった
なぜメミニからその気配を感じられたのかは分からない、だが、同時にただひとつの想像をする
そして、メミニが奏でる瞬間にそれを確信した
幻楽器の、音色が響き渡るのだと
メミニのヴィオラからは、この世の物とは思えぬくらい、美しく、儚く、繊細で、力強い音色が奏でられ、劇場の舞台から客席までを一切の隙間なく埋め尽くした
たった一音で、それは自分は今までに聞いてきたどの音よりも素晴らしいと、頭の中に深く刻まれる
他の、自分が奏でたハープや、スペクラートの奏でたヴァイオリンとは、比べ物にならないほどに




