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第五話 憧れる義兄

脳が覚醒すると同時に、体中が柔らかく温かい物で包まれている感覚を覚えた


窓から照りつける光は、空高くから自分を包み込んでいる

 

自分は、いつもの寝室で横たわっていることに気がついた


ハープは無い

あるのは羽毛でできた布団だけだ


誰かが運んでくれたのだろう


布団を持ち上げ起き上がると、いつもの朝とは少し違う光景が広がっていた


自分の足元には昨日のハープがスタンドに飾られており、こんなものがこの家にあったのかと少々驚いた

 

周りを見渡すがすでに義兄弟(きょうだい)の姿はなく、部屋もいつもと違って燦然としている気がする


窓に振り向くと、太陽はすでに天高くから自分を見下ろしていた

つまり、もうすでに昼の時間だということだ


夜に出歩いたのはバレているだろうし、作法の訓練も参加していないため、さすがの子爵であっても怒っているはずだ


昨日起きた様々な事を思い出す暇なく、子爵に対する改悛の念を持ってゆっくりと立ち上がる


と、いってもやはり怒られるのは怖い

重い足取りで扉の前にたどり着いたが、その後を考えてしまい思わず体の向きを反転する

 

そうして自分でも煩わしさを感じるくらい部屋中を彷徨いていると、自分の足音に紛れるような小さい音が扉から聞こえた


動揺し、布団の上に突っ伏してやり過ごそうと寝転んだ

そして目を瞑り、体の力を緩める


扉が開き、足音が迫ってくる

なにかから隠れるように、自分は死体だとアピールするように、硬直する


自分に向かって歩いてくる足音一歩一歩に緊張していると、全身から冷や汗が浮かんでくる

自分に関わらず帰ってくれと祈っていると、足音は耳の隣で止まった


恐らく顔を近づけているのだろう、少しの風が顔を這う


頭の中で怯えていると、上から声が聞こえた

「起きてるだろう?あの子が待っているよ」


声を聞いた途端、自分は目を見開いてその相手を見つめた


黒い艶やかな髪に紛れるような白いメッシュ、優しい顔つきで見つめてくる目線

その相手の正体は、自分が最も尊敬する人物であるクラウィール・ナルヴィー義兄(にい)さまであった


義兄(にい)さま!」

声を張り上げると、クラウィール義兄さまは優しい顔で自分の頭を撫でる


子供に接する母親のように、優しく頭を撫でてくれる

それがなんだか心地よい

 

「安心して、父さんには伝えてないよ」

まるで自分の思考を読み取ったかのように、義兄さまはそう声をかけてくれる


やっぱり、自分はこの人が大好きだ

優しくて、強くて、子爵以上に信頼している人物

さすが、ナルヴィー子爵の息子だ


「ところで義兄(にい)さま、あの子って?」

「あぁ、一緒にいたルプスの事だよ

ホールで一緒に眠っていた時は驚いたけどね」


ルプス…

あの生物の種族名だろうか?

まだまだ知識が足りない事を改めて自覚したところで、自分にはあの生物の素性が少し気になった

 

「あのルプスって、何処から来たとかって分かりますか?」

義兄さまも全知という訳ではないのは分かっているが、少しの希望を持って聞いてみる


「洗って見えたあの綺麗な毛並み、そして透き通るような白、まず間違いなくこの都市に住むルプスではないかな」

と、いうことはあのルプスは他の都市から来た生物ということか


淡々と語ったが、義兄さまはあのルプスを洗ってあげたのか


普通は自分がやるはずだと思うのだが、文句の一つも言わずに洗い、迎え入れてくれた義兄さまには頭が上がらない


「あの子の名前はつけた?」

「ううん、つけてない」

言われてみれば、今までずっと生物と呼んでいた

この家で飼う事になるだろうし、名前をつけてあげないと失礼か


「名前、どうする?」

思考を巡らせ、一つの言葉を思い付く

 

「…アルブ」

意を理解している数少ない単語


ストルゲ語で白を意味する単語


白い生物にシロと名付けるくらい安直だが、その名前がぴったりだと、少ない時間の中で自分は判断した


「アルブ・ナルヴィー、良い名前だね」

そう言うと、義兄さまは扉に向けて歩きだした


義兄(にい)さま?」

「ちょっと野暮用でね

アルブに会いに行ってあげな?」


そう言うと、義兄さまは部屋から出ていきどこかへ向かって歩いていった

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