第六十七話 安堵
──駆ける音が聞こえる
声に反応し動きを止めた、目の前のマグヌムから目をそらさず、その人物が来るまでの時間を静かに待った
すぐ後ろに来ただろう、そう感じた時、希望と期待を持ってその人物に振り返る
「……」
だが、その人物から受け取ったのは、希望からかけはなれた感情だった
地面に垂れた、紫の髪
明らかに女性とわかる外見
その手には、黒く輝くクラリネットが握られていた
木管楽器、アルカナウッドウィンド、感情を壊す音を出す
感情が壊れる、音を聞いた時にどうなるか、想像すら出来ぬほどの恐ろしい力
感情が壊れるとどうなるか?感情が無くなるのだろうか?それとも、マグヌムのように不安定になってしまうのか?
どちらにせよ、この状況で奏でられた時、自分は終わってしまうだろう
だが、打開案はない
生き残ることができたとしても、マグヌムを止めることは出来なくなるのは明白だ
そして、スペクラートがクラリネットを上に上げる
……ここで、終わりとなってしまうのか
口を、マウスピースに近付ける
……ごめん、義兄さま、後は…
そして、息を深く吸いこんだ
「……僕の、大事な義弟に、なにをするつもりだい?」
その瞬間、クラリネットの上管が、真っ二つに切断された
そこにいたのは、スペクラートを一切傷つけることなく、正確にクラリネットだけを切断したウィルスール義兄さま、そして、その後ろから声を出したであろうクラウィール義兄さまと、隣にはグローリア義兄さまが立っていた
「危なかったぁ、ウィルスールがいなかったらどうなってたことやら」
「クラルス!大丈夫かい!?」
ウィルスール義兄さまが、こちらに声をかける
「は、はい、大丈夫…です」
「いやー、こっちに来た瞬間クライマックスだったとはね」
「呑気な事言ってる場合じゃないですよ、グローリア義兄さま」
よく見ると、クラウィール義兄さまの手には木刀が握られており、ウィルスール義兄さまと武器を交換していたようだ
突然起きたことによって少し混乱していたが、三人を見て心の底から安堵した
そして、いまにもクラウィール義兄さまの所へ向かいたかったが、それを、男が許すはずもなかった




