第五十四話 不安定
「ねぇ、クラルス」
食後に、ラクリマ義姉さまが話しかけてきた
義姉さまは、どこか不安そうな目で自分のことを見つめてきており、こんな義姉さまはあまり見ることがなかった
「ど、どうしたんですか、義姉さま?」
「……ごめんね……ごめんね」
義姉さまは、瞳に涙を携えながらそう連呼した
なにがなんだかわからなかったが、義姉さまはたまに"不安定"になると聞いた
それが、今起こっているのだろう
「ごめんね…私が出来なかったから…ごめんね…」
だが、なぜ不安定になったのか
義姉さまに対して自分がしたことといえば、掃除を手伝わせてくれと頼み込んだことくらいだ
だが、それで不安定になるのか?
「義姉さま、大丈夫ですか?」
「ごめんね…迷惑かけて…ごめんね…
私が未熟だから…私が頼りないから…迷惑ばっかりで...ごめんね」
「義姉さま、自分は義姉さまが迷惑だなんて一回も思ったことはありませんよ
それどころか、とても尊敬してますよ」
どうするべきか、などは一切わからない
なので、義姉さまが誤解しているであろう、自分の気持ちを正直に義姉さまにぶつける
「……本当に?」
「えぇ、本当です
義姉さまは、自分にとって二人目の母親のような存在です
頼りがいがあって、温かくて、とても優しい所が、です
だから、少しくらい迷惑をかけて貰ったほうが自分は嬉しいですし、義姉さまもそんなに考え込まなくてもいいんですよ」
「……ぅ」
どうやら、義姉さまの不安定も治まってきたようだ
先程の寂しそうな顔も少し和らいでいる
「……うん……ありがとう」
義姉さまはそう言って涙を拭う
いまだに不安定が残りながらも、精一杯の笑顔を見せて、義姉さまは口を開いた
「それじゃあ、また…明日」
そうして、義姉さまは寝室へと向かっていった
意外…というわけでもないが、想像を超えてきた義姉さまの性格は、自分の中でも強く印象に残った
世の中には、あのような自分の嫌な想像を膨らませ、それが自分自身の首をしめつけている者が、他にもまだまだいるのだろう
それが育ち、より強くなったとき、抗える者はいったいどれだけいるのだろうか
死んだほうがマシ、などという思いで自ら命を絶つ者もいるはずだ
自分は、その者達の気持ちを理解することが出来なくても、寄り添い、少しでも安心させてあげたい
自分勝手ではあると思う
だが、他者を助けたいというのはそういうものだ
自分勝手だろうと、自分は、より多くの人を救いたい
死を、自らの手で訪れさせるなどという、"最悪"なことは、決してあってはならない
死を求めるなどということは、誰であろうと許さない
──死は、全てを失うことなのだから




