第四十七話 仕事追加
舞台の裏を覗き込むと、三人が楽譜を見つめて眉間にシワを寄せている
楽譜は先ほど奏でた曲のものだったが、所々に線や文字が書かれており、まるで落書きのようになっていた
「……あのー、イーデムさん?」
恐る恐る声をかけると、イーデムは顔をあげてすぐさま仕事の内容の説明に入った
「あぁ、すみません
仕事の内容ですが、今回はこちらの楽譜を完成させてもらいます」
そう言って手渡されたのは、完成済みの楽譜と複数の未完成な楽譜だった
「…これは?」
「私やキャピオが指示するので、その通りに楽譜を訂正してください」
それだけ言うと、イーデムはすぐに指示を始めた
「14番、第7小節の3音目を半音上げて」
「14番、第9小節の4音目の8分を付点8分に」
近くにあったペンを使って、言われた通りにメモを書き込むが、やはり困惑は隠せない
普通は楽譜に直接書き込むなどという荒業はしないだろう
しかも、かなり無茶苦茶な指示がなされている
意味が分からず本当に書いていいのか躊躇したのだが、自分には断るという選択肢がないため、困惑が消えた後はただ淡々と、指示を楽譜に書き込むだけの機械と化していた
それがだいたい一時間近く続き、最後の楽譜に最後の指示を書き込む
すると、イーデムが楽譜を奪い取るように楽譜の確認を始めた
隅々まで指示通りに出来ているかを確認し、最後にはそれぞれにタイトルと思われる単語を書き込み、二人の元へと戻っていく
「え……っと……?」
「あぁ、とりあえずこの仕事は終わりました
なので、次の仕事を依頼します
小屋にある幻楽器を、スペクラートと共にここまで運んできてください」
すると紫髪の女性、スペクラートが立ち上がり、着いてこいと手招きをしてきた
戸惑いながらもその後を追う
イーデムの方向を向くと、どうやらキャピオにも指示を出しているようだった
小屋にたどり着くと、倉庫のような部屋からはほとんどの楽器と木箱が消えており、それどころか塵一つ残っていないほどに綺麗になっている
そこにただ一つ、部屋の中央に置いてあったのは、あの日自分がルダスから盗ってきた幻楽器の入った箱だった
だが、自分の運んだものだけでなく、追加で同じ大きさの箱が二つ重なっている
スペクラートはその蓋を開き、クッションごと小屋に並べ始めた
等間隔に並んだ計五十の幻楽器が小屋を埋め着くし、スペクラートはそこから一つのヴァイオリンを取り出す
アクセサリーのように小さいヴァイオリンを、一切そんなことを感じさせないほどに弓を操り、音を奏でた
やはり魅了されるほどの美しい音色を鳴らし、それが小屋の中にまで響き渡る
並べられた幻楽器にその音が染み込むと、その幻楽器が振動し始めた
そして、振動がだんだんと大きくなると、それに応じて幻楽器自体も膨張していく
─数分も経つと、幻楽器とクッションが元の大きさを取り戻し、ギリギリの隙間を保ちながら小屋の空間を埋め尽くした
スペクラートはその幻楽器を指差し、なにかを伝えようと体を動かす
「……はい?」
「………………」
運べ…とでも言っているのか、スペクラートはそこから一つ持ち上げ、小屋とコンサートホールを交互に指差した
自分も幻楽器を一つ持ち上げると、スペクラートはコンサートホールまで歩き出す
その後を追いかけ、先ほどイーデム達がいた場所まで幻楽器を運んだ
イーデムとキャピオの姿はすでに消えており、楽譜も一枚すら無くなっていた
幻想種もほとんどが姿を消しており、残った数名もほとんどが消えかけている
あと少しで全員が姿を消すだろう
そう思っていたのだが
大体五つ目の幻楽器を運び終えたとき、舞台から聞き覚えのある声が聞こえた




