第四十五話 不服な演奏
演奏が始まった
弦楽器を主体としたその演奏は、全体的にゆったりと、穏やかなテンポで進んでいる
神秘的で、なおかつ穏やかな、癒される美しさを持つ曲だ
心の底から優しいと感じられ、なおかつ麗しい曲調は、まさにクラウィール義兄さまを思い出す
演奏が終わると、目の前にある楽譜に目を通す
いままでにヴァイオリンを弾いたことがないので、もちろん楽譜を見るのも初めてのはずだ
それなのにもかかわらず、一目見ただけで弓の構え方や動かし方などが完璧に理解できた
ハープの時と同じだ
─これは…コウマの…自分の記憶なのだろうか
その様子を見ていたマグヌムは、何かを察したように嬉しそうな自信げな笑顔を見せた
「それじゃあもう一度いこう、今度は君もだクラルス君」
少し間をおいてそう言うと、マグヌムは再び同じように指揮棒を動かし始める
空気中に命令を書き込むように、迷いなくマグヌムは指揮棒を動かす
それに答えるように、自分も弓を動かした
何故こんなことをしているのか疑問に思いながらも、先ほど感じたままに体を動かし、音色を奏でる
周りとの調和が意外にも心地よく、どこか懐かしい気分にもなった
その後も何曲か同じ要領で演奏していった
不服だが、楽しかったという気持ちもなくはない
七歳にして、演奏の楽しさを知ってしまったようだ
しかし、自分がここまで演奏出来るとは思ってもみなかった
─コウマとは、いったいどのような人物だったのだろうか
「さて、今日はここまでにしようか」
マグヌムがこちらを向いてそう言った
すると、人間の三人は楽器を持って舞台の裏へと消えていく
幻想種達はその場に楽器を下ろした後、動く気配もなく立ち尽くしている
自分はどうすればいいか分からず、座ったまま動くことはない
すると、マグヌムがこちらに近づき、満面の笑みで語りかけてきた
「すっばっらっしっいっ!!
最高だったよ!クラルス君!」
「……」
嫌がる自分など完全に無視し、マグヌムは一人で話続けている
「あの構え、あの弓捌き、一度聞いただけで弾ける才能!
まさに!僕が求めてきた完璧な逸材だよ!
どうだい?これからも僕達と一緒にオーケストラを続けないかい?君の才能があれば僕達はさらに高みを目指せる!
世界で、最も素晴らしいオーケストラが、今だけでなく、過去や未来にまで響き渡ることになるだろう!
想像してみてくれ、君が、君の奏でる音楽が、この世界全てを魅了し、それを越える者が現れない!正真正銘、世界最高の奏者になれるのだよ!」
興奮していつも以上に迫ってくるマグヌムに、自分は始めて出会った時と同じような恐怖を覚えた
狂気に染まった化物の、更なる狂気
今にも逃げ出してしまいたかったが、体が一切動かない
話の内容など一切聞き入れず、この、苦しみしかない時間が早く終わることを、ヴァイオリンを抱きしめ祈っていた




