第三十六話 訓練開始
目覚めと共に窓からの光を浴びる
普段なら心地よいその温もりも、今の憂鬱を晴らすためには全く足りなかった
「今日から訓練開始か…」
重い足を引きずり、玄関ホールへと向かう
ウィルスール義兄さまとルシオラ義兄さまの後ろに隠れ、ホールを見下ろすと、アウロラがいくつもの皿を用意しており、それ以外にも本や、針金で出来たドレスの骨組み、いくつもの人形まである
「うぇぇ…またあれか…」
「魔力…だっけ?私達には必要ないよねぇ」
アウロラの用意した道具を見て、ウィルスール義兄さまとルシオラ義兄さまが、心底嫌がって会話をしている
魔力の訓練とは、魔法の練習だろうか?
昨日の便利そうな道具を見たので、使えるならば努力してでも使いたいが、ウィルスール義兄さまは肉体派なので頭を使う魔法はあまり得意ではないのだろう
逆にルシオラ義兄さまは、喋り方からして必要ないが使えた、といったところだろうか
階段を降りると、アウロラがこちらに気がついた
「来たね。それじゃあ───先に始めよっか。」
今のアウロラは夕食の時のように明るく好まれそうな性格になっている
裏表がありまくりだ
「ここに立ってね。」
案内されるがままに行くと、ホールを離れて廊下に引かれた線まで下がった
線は廊下に対して垂直に引かれており、ホールを跨いだ反対側にも同じように線が引かれている
「それでこれを───頭に乗せるの」
そうして手渡されたのは、自分の顔と同じくらいの大きさの中皿だった
義兄さま達にはさらに大きい皿が渡され、三人ともそれを頭に乗せる
二人の義兄さまはこの後の事を知っているからか、始まる前から辛そうな顔をしている
「クラルス君が───初めてだから、改めて解説───するね。
まず、皿を頭に乗せたまま───ここから向こうの線までを───往復する。
そして───皿が一枚で成功したら───皿を二枚に増やして往復、二枚で成功したら───三枚に増やして往復、それを───十枚になるまで続ける。
途中で皿を落とした場合は───初めからやり直しになって、落とした枚数の皿を───改めて頭に乗せて往復してもらう。
最後に、落とした皿の枚数だけ───昼の訓練に上乗せする。
終わるまで朝ごはんは───無しだから、頑張ってね。」
アウロラは笑顔でそう言うと、義兄さま二人はすぐに歩き始めた
貴族としての訓練ならば、これは姿勢矯正とでもいうのだろうか
ルールだけ聞くとシンプル故に簡単そうだが、実際にやってみると想像以上に難しい
最初の数枚はなんとか突破出来たが、五枚、六枚と皿の枚数が増えると頭にかかる負担が大きくなり、すこしでもバランスを崩しただけで、すぐに地面に皿を落としてしまう
バランス力と集中力の両方が必要なのにも関わらず、朝ごはんを食べていないお陰で歩いている途中で集中力が切れることも多々あった
まだ安心できた部分として、落としても、アウロラの風魔法で皿を浮かばせていたため皿が割れることはなかった
そのため、皿の割れる騒音で集中が切れることはなく、そこだけが唯一の安泰だった
「みんな───お疲れ様。」
結局、一時間ほど経った所で合計324枚、皿を落として最後の十枚を達成した
義兄さま達や、後から来た義姉さま達も苦戦していたが、自分が落とした皿の枚数は上から二番目と、特に多かったらしい
一番はマーテル義姉さまで、400枚ほど落とした所で泣き出してしまい、パテルがどこかへ連れていってしまった




