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第三十五話 知らない言葉

─食事を終え、覚悟を決めて書庫の扉に手をかける


この先に待っている恐怖を想像し、それに怯え震える手をもう片方の手で抑え込む 

そして、ゆっくりと扉を開いた

 

そこには小さな本を読む一人の女性が、紅い目玉を爛々とさせて、自分が来ることを待ち呆けていた


「ノックも無し?───まぁいいけど。」

話し方が先ほどとはまったく違っている

明るく好かれやすそうな先ほどとは違い、今は真逆の何にも興味を示していない話し方だ


「それにしても───この本、かなり面白いわね。初めて読んだけど───表現が独特で───好きだわ。」

あの本は書かれている単語や文章が難しく、自分はとっくに諦めた本だ

やはり家庭教師だけあって文字の読み書きは楽勝なのだろう

 

「それはさておき───」

アウロラが本を置き、自分の下へと近づいてくる

それはまるで、巨人が歩いてくるような威圧感を感じさせた


「あなたは、───『クルードゥ』という単語に聞き覚えは───ありますか?」

目の前で止まったアウロラは、自分に向かってそう問うた


だが、自分には全く聞き覚えがない

本ですら、そんな単語を見た記憶がない


「いえ…知りません」

「そう、ですか……」

アウロラの顔が曇り、悲しみに包まれる

まるで一縷の希望が打ち砕かれた時のような深い悲哀だ


「すみません───それだけです。では、また───明日……」

扉を開き、アウロラは書庫から出ていった

いったいなんだったのだろうか?


何か言いたげだったが、結局何も分からずじまいとなってしまった

それに結局、説教もなかった

ないのはないでありがたいが、自分が怯えて覚悟を決めた時間を返してほしいとは思う

 

「……クルードゥ」

この言葉にはどのような意味があるのか、何かを表す言葉なのか、それを理解するのはまだまだ先だと自分の直感が唸っていた


結局、その日は本を読んで終えた

湯浴みをし、そのまま就寝しようと思ったが、隣に寝転んだウィルスール義兄さまに気付き、昼間の様子を伺うことにした


「義兄さま、義兄さま」

「ん?どうした、クラルス」

「昼間の訓練ってどんな感じだったんですか?」


義兄さまは数秒間沈黙した後、一言だけ呟く

「あれは、騎士の訓練だ…」

弱々しくそう言うと、義兄さまはさっさと眠りについてしまった


騎士とは圧倒的な戦力を持つ戦士の総称

その称号を手にするには血の滲む努力が必要なのだと聞いた事がある

普段から鍛練を欠かさないウィルスール義兄さまがそう言うとは、いったいどれだけの苦行なのか


そして、先ほど無駄になった覚悟と緊張が、明日の訓練に向けて伸びたのだった

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