第三十四話 顔合わせ
家につく頃には、もうすでに周囲が暗闇に包まれており、酒場と思われる店からは男達の歌声や叫び声が響いている
アルコールの強い臭いに頭がふらつきながらも、なんとか家の扉を潜ることが出来た
目の前には二人の使用人がおり、自分を見るや否やすぐさま今やっている仕事を中断して、自分の下に駆け寄ってくる
「「クラルス様!」」
二人は自分の体の安全を確認し、安心した顔で自分を見つめてくる
「良かった…ご無事でなによりです」
「あら?なにやら疲れていらっしゃるようですね?
では、今回のお叱りは無しにしちゃいましょう」
名札にスビトと書かれた誠実そうな使用人と、アクィラと書かれた元気そうな使用人だ
「それでは、手洗いうがいを済ませた後、夕食を頂きに行きましょうか」
「ご飯は大事ですから、しっかり食べて下さいね!」
「は、はい」
流されるままに夕食の席につく
約束を破ってしまった申し訳なさで、小さくなりながらだった
もうすでに何人かは食事を終えているだろうと思っていたのだが、始まって数十分は経っているであろう夕食の席には、義父さまとクラウィール義兄さま以外の全ての席が埋まっていた
どうやら今日は皆あまり食事が喉を通っていないようだった
普段は穴に放り込むように食事をするウィルスール義兄さまも、ナイフとフォークで肉を切り分け、小さくなった欠片を少しずつ食べていた
全体的に重苦しい雰囲気の中、普段は空席となっている場所に座っている女性が、自分に向かって口を開く
「こんばんは、又は───。君がクラルス君だよね?
────、今日からナルヴィー家の家庭教師となったアウロラ・エオスです。───よろしくね?」
…なんだろう、とても嫌な話し方だ
まるで頭に直接話しかけてきてるようで、気味が悪い
それに途切れ途切れで、まるで言葉同士が切り離されているようだ
「よ、よろしくお願いします…」
歯切れ悪く伝えたものの、アウロラはにっこりと微笑み、自分の耳元で一言呟いた
「後で書庫に来て。───話をしましょう」
勝手に外出したことを怒っているのだろう
ともかく、それを伝えるとアウロラはすぐに食事に戻っていった
色白な肌に金色の髪、若々しいその見た目に似合わず、アウロラからは戦火の中潜ってきた老兵と同じくらいの威圧感を感じた
怒られるのは覚悟していたとはいえ、義兄弟がこんな状況になったのはアウロラによるものだろう
それを考えると、この後どんな凄惨なお叱りが待っているのか恐ろしくて仕方がない
震える手を抑えて食事をした
アウロラからの仕置きを内容を考える度に、どんどん惨い光景になっていく
あり得ぬと思っていても想像してしまい、その緊張で食事の味を楽しむ事もできなかった




