第三十三話 睡魔
自分とカミラは、メミニに対して様々な言葉を教え始めた
基本的な地面や空はもちろん、身振り手振りを駆使して、眠りやご飯も教えた
メミニは覚えが早く、すぐに単語の意味と発音を理解していた
数時間たつ頃にはカタコトでの会話は可能となっており、二人で妙な達成感に浸った
数時間、詳しく言うと五時間以上もメミニに単語を教えていたのだが、ここである違和感に気がついた
眠くない、そして空腹ではない
精神は常に元気な状態を保っているようだが、肉体は確実に疲弊していると思う
今の状態で走り回ってもいつまででも走れそうだが、肉体の疲労で動けなくなるのが分かっている
生物として確実になにかが抜け落ちているが、それがなにかを断定するにはまだまだ情報も足りなかった
「ねぇクラルス、そろそろ帰らないと…」
カミラが心配そうに見つめてくる
確かに現実と時間が同じであれば、そろそろ日の暮れてくる時間だ
そして、一度現実に戻ることを二人に伝えた
「うん、もっと居たかったけど…このままだと本当に怒られちゃうから…」
「ワカッタ、アリガトウ、サヨウナラ」
「それじゃあ、またね」
メミニから離れ、カミラと二人で鐘を響かせる
すると、穴だらけの地形が全て綺麗に整い、明るい陽光が差す緑色の地面に立っていた
それと同時に、とてつもない眠気に襲われる
「うぅ、クラ…ルス……」
カミラは、自分を見つめながら深い眠りに落ちていった
自分は、今にも閉じそうな瞼を無理矢理押し上げ、空にある太陽の位置を確認する
高くから見つめてくる太陽は、やはり幻想の世界に行く前と後で変わっていないように見える、
体の痛みもほとんどない、
ただ、凄く眠い…
もう、限界…だ……
あれからどれだけの時間が経っただろうか
気がつくと自分は、朱い夕焼けに照らされて樹木の側に座り込んでいた
カミラの気配がない、こんな時間なのでもう家に戻っていったのだろう
自分も帰らなければならない
立ち上がろうとした所で、嫌な匂いが鼻を貫いた
煙のような煤けた匂いだ、なにかが燃えているのだろうか?
だとすればすぐにここから離れたほうが良いだろうが、自分は好奇心でその燃えているであろう方向に体をひねった
そこには一本の筒が置いてあり、筒の先からは匂いの正体であろう煙がモクモクと出続けていた
「…なにこれ?」
その筒に触れてみると、燃えているように熱せられていた
あと数秒触れているだけで指が火傷していただろう
一見すると危ない道具に見えるが、この煙はかなり役に立っているようだ
まずは害獣避けで、寝ている自分が獣に襲われないようにしているのだろう
そして救難信号、この煙はかなり高くまで飛んでいるため、遠くから見ても気がつきやすい
それにこれは、魔法によって作られた道具に思える
普通に燃やしただけではこんなに煙が出る前に火は消えるだろうし、害獣避けとしてならば、かなり長くここに置いてあったはずだ
睡眠という無防備な状態から守ってくれたのは嬉しいが、いったい誰がこんな道具を置いて自分を守ってくれたのだろうか
もしかしてカミラがやってくれたのか?
いや、カミラは自分を引っ張る力は無いし、こんな道具も持っていなかった
で、あればいったい誰が?
色々と考えたが、どうもしっくりくる答えが見つからず、助けてくれた相手に心から感謝をして、すぐさま家に帰宅した




