第三十二話 感情少薄
「…助けたい」
だが、どうすればいい
対話は試みたが恐らく不可能だ
で、あれば文字の読み書きも不可能
コミュニケーションが取れない
こうやって悩んでいる間も、目の前のそれはメミニと呟き続けている
カミラも一緒に考えてくれているようだが、アイデアが浮かんでいる様子はなかった
「…なんとかできる方法があればいいんだけど」
「じゃあ、クラルスがいっぱい話しかけてあげたら?
さっきからクラルスの言葉には反応してるよ」
そうだな、それしかないか
既に思い付いていた事柄でも、他人から言われると説得力が違う
「君、マグヌムと知り合いなの?」
「……マ……マグヌム!抜け…殻……!僕…は、違う!」
それは、指一つ動かさずに声だけを出し続ける
その言葉には明らかな憎しみが籠っていたが、興奮によって腹の底から出た声だと感じた
まるで子供が、無邪気に意味の知らない悪口を言うように、ただ聞いた言葉をそのまま出しているだけのように、それは言った
「え?、え?」
「ど、どうしたの?」
二人して困惑したままだが、ただ一つ分かった事は、これはまだ"赤ちゃん"のようだということだ
意思がない、ただただ聞いたことを反復しているだけだ
「マグヌム、僕だ、ではない、助け、知ってる」
少し落ち着いてきたが、やはりまだまだ言葉の羅列は続いていた
だが、先ほどの連呼とは違い、それぞれがまったく違う言葉だった
「怖い…けど、怖くなくなってきたかも……」
突然カミラがそう言い出した
怯えはすっかり消えていたが、やはりまだまだ恐怖は残っていたのだろう
だが、そんな痕跡はいっさい残っておらず、カミラの顔色はいつものように明るく戻っていた
─少しそうではないかと思っていたが
やはり、この世界では感情の起伏が薄くなっている
前に来た時にも自分は恐怖という感情が薄くなっていたし、怒りも抑制されていたような気はしていた
それが、今回のカミラにも起きている
つまり、この世界では感情が抑制される異常が起きているのだろう
そうであれば、マグヌム以外の三人がほとんど冷静なのも頷けるが
ならば、マグヌムは何故あそこまで感情が豊かなのだ?
…もしや、マグヌムは人ではないのか?
今の自分の冷静さに恐怖を覚え、それがすぐに消えていく
このままずっとここにいて、もし感情が失われたとするならば、それは自分と呼べるのだろうか?
感情という、生物として重要な要素が異常ならば、それは果たして生物と呼べるのだろうか
マグヌムに対する謎を脳に詰めたところで、先ほどの生命体と改めてコミュニケーションが取れるか試してみた
まずは名前を覚えてもらうため、二人して自分の名前を教え続けた
「クラルス、ク ・ ラ ・ ル ・ ス」
「カミラ、わ、私は、カミラ!」
「クラ…ルス、カミラ…」
手応えはあった
自分の方を向いてはクラルスと呼び、カミラに向いてはカミラと呼ぶ、自分たちの名前は覚えてもらえたようだ
そこで、カミラが一つ質問をしてきた
「この子の名前…なんていうのかな?」
「分からない……けど、最初のあれじゃないかな?」
最初に連呼していた"メミニ"それが名前ではないだろうか
名前というのは一生ものだ、知性を持つ者であれば名前はある
ここまで喋れている知性も持つならば、やはり名前は持っているだろう
メミニ、唯一不明であった単語だが、名前であれば話は別だ
そういうことで、自分とカミラは、それをメミニと呼ぶことにした
「メミニ」
メミニにそう声をかけると、思い出したかのようにこちらに手を差しのべてくる
メミニという言葉に対しては、いままで以上に興奮した様子ですり寄ってきた
安心できる訳でも、不安になるわけでもなく、ただただ普通という、どこかいままで通りという感覚だったが、メミニはとても喜んでいるようで、それが嬉しくてしばらく三人で肩を並べた




