第二十九話 再開
さあ、今日は待ちに待ったカミラとの約束の日だ
せっかくならばいつものに加えてあの鐘も持っていこうか
…いや、あのハープには監視がついている
鐘にも監視がついている可能性はあるが、今日まで動きにくることもなかった
鐘にはついていないと考えるのが妥当だろう
両方は持っていくのは無理だが、片方ずつならば盗んだこともバレないはずだ
早速部屋を出て正面玄関に向かったのだが、そうだ、今日はクラウィール義兄さまがいないので訓練は中止になったのだった
家庭教師は昼から来るらしいが、その時間は自分は平原にいる
そのため訓練は明日までお預けだ、そもそも自分はクラウィール義兄さま以外からの訓練など受けたくない
さて、早速向かおうか
朝食を食べ終え、カミラとの約束の時間まで書庫で過ごす
そしてさっさと荷物を持ち、客室の用意などで忙しくしている使用人たちを横目に屋敷を抜け出し平原へ向かう
なぜだろうか、いつも以上にカミラと会うのが楽しみだ
幻想局の経験のせいだろうか?
ともかく、笑顔で足を動かしていた
そんな光景を見ていた人物、屋敷の前で二つのボストンバッグを肩にかけている
そう、屋敷の家庭教師になるという人物が、クラルスを見て呟いた
「あの子………いや、まさかね…」
さぁ、やってきましたいつもの平原
相変わらず、澄んだ空気と広大な自然が心地良い
それにしても、今日はまだカミラは来ていないようだ、いつもならば満面の笑みで自分に向かって走ってくるのだが
寝坊か、用事か、わからないが、待っていればいつかは来るだろう
そうして一時間が経過した
おかしい、これまでにカミラが予定をすっぽかした事などなかった
今日はそんなに忙しいのだろうか?
しかたない、気長に待つとしよう
─平原に来てからおよそ三時間が経過した
自分は、読めない本を眺めていたり、地面に無駄に穴を掘ったりして時間を潰していたが、それもそろそろ限界だ
もうすぐ昼だが、このまま来なければ一度、家に戻るのも一つかもしれない
そんな時だった、見覚えのある純白のワンピース、アイボリー色の艶やかな髪、芸術のようなあの顔立ち、間違いなくカミラだ
こちらに走ってくるカミラは、笑顔を見せながらもどこか焦った表情をしている
「カミラ!」
彼女に向かって声をあげると、カミラは走る速度を上げてこちらに向かってくる
自分も同じようにカミラに向かって走っていく
「クラルス、ごめんなさい」
彼女は悲しげにそう言った
出会えた嬉しさ以上に、遅れた後悔がカミラの胸を侵しているのだろう
だが自分は、カミラと出会えたという事実に、どうしようもない喜びを感じている
どうにかしてそれを伝えようとしたが、カミラはそれよりも速く口を開いた
「私の家、昨日からお客様が来ていて、それで皆怒りっぽくなってるの、それが怖くて…
それに、私がここに来ようとしても今日はやめなさい、って引き止められて…
抜け出してきたからこんな時間になっちゃったんだけど、ごめんなさい」
謝りながら、悲しい顔で見つめてくるカミラ
昨日遊んだ年齢が同じであるはずのマーテル義姉さまと比べて、それはあまりにも苦しそうで、辛そうだった
カミラはまだ自分と同じ7歳だ、しかも自分のように中身が成熟している訳でもない
仕方のない事だとしても、子供にこんな顔をさせるのは果たして正しいことなのだろうか
それが正しいことなのか、間違っていることなのか、善か、悪か、
それらを判断するには、自分はまだ若すぎる
「大丈夫だよ、自分も寝坊してついさっき来た所だったし!
それに、自分はカミラに会えるだけで嬉しいよ
カミラのためなら何日だって待てる」
慰めと励ましの意を込めてそう言うと、カミラはありがとうと今までに見たことのない、優しく、儚げな笑顔を見せてくれた
「私、約束を破っちゃったから、1ヶ月は家から出られないと思う
それまで待っててくれる?」
「もちろん、じゃあ今日は1ヶ月分多く遊ぼう」
そのために、今日持ってきたこれが役に立つかも知れない
カミラにあの鐘を見せる
「じゃーん!これなーんだ」
「………鐘?」
「そう、だけどただの鐘じゃないんだ」
自分は鐘の上部を摘まむと、静かに鐘を傾けた
美しい音色が平原いっぱいに広がり、自分やカミラの耳にこびりつく
だが、目に写る光景はすでに、平原とは似ても似つかぬものだった




