第十八話 煉瓦道
足を進めたキャピオを追い、自分も暗闇へ出ると、目の前には巨大な煉瓦の壁が広がり、通路のように左右で一直線に広がっていた
驚く自分に意を介さず、キャピオはせいぜい三歩先くらいしか見えない暗闇の道を、迷うことなく進んでいった
キャピオについていくこと約三分、ここまで先程と同じような木造の扉が等間隔で並んでいるだけで、目新しいものなどは一切ない
一人でいると、いつ精神が壊れてもおかしくない道を、キャピオは足を緩めることなく歩いている
ふとカバンに手をいれると、義姉さまからもらったお菓子が手に触れた
クッキーが十枚ほど入った袋からそのなかの一枚を取り出し、それを食べる
優しい甘みが口に広がり、サクサクとした食感が寂しがっていた口と脳を満たしてゆく
不安感で埋もれていた心を、クッキーの幸福感が取り除く
義姉さまに包まれているような安心感で、恐怖で震えていた足も元の調子を取り戻した
それからさらに数分後、もう何枚目かも分からない扉の前でキャピオは立ち止まった
そして他と全く同じ外見の扉、そのドアノブに手を伸ばした
手に力を入れ、ゆっくりと回転させる
限界まで回転させると、最後には周囲に美しい音色が響いた
一定の方向からではなく、前からも、後ろからも、左右からも、上からも、全く同じように響き渡った
ピアノの音だろう、惚れ惚れするような美しい音色、それは自分の立っている場所や、重力すらも感じさせなくなるほどに、たった一音で自分を完全に虜にさせた
初めて鐘の音を聞いた時や、ハープを奏でた時と同じだ
ということは、これは幻楽器の音…
それに気がついた自分は、すぐに周囲を警戒した
幻楽器であれば、必ずなにかが起きるだろうと考えて
だが、そんな心配を吹き飛ばしてキャピオは扉を開いた
その部屋からは強烈な光が溢れだし、真っ暗だった道もその部屋の前だけは太陽に当たったように明るく照らされている
勢いよく飛び込んできた光に目が眩み、反射的に瞼を閉じる
幸い数秒で慣れたものの、瞼を閉じなければ視力を失っていた可能性もあるほどに、その部屋は明るかった
先に入っていたキャピオに続き、光の中に入っていく
そこには、二つの人影が見えた
片方は間違いなくキャピオだろう
もう一人は後ろ姿のため確証はないが、初めて幻想局に行ったとき、椅子に座っていた最後の一人に見える
その髪は腰まで届くほどに長く、幻想的な紫色が光に照らされている
スーツを着ているが、体つきや佇まいを見るに彼女は女性のようだった




