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第十一話 幻楽器

「ねぇ、その楽器は何?」


カミラは笑顔を見せたまま、自身が足元に置いていたハープに指を指す


せっかくだが、この楽器がもたらす力が分からない内は他の人を巻き込む訳にはいかない

それで何かが起きても、責任なんてとれるはずがない


断るのも傷つくが、仕方がない


「ごめん、この楽器は危ないから聞かせられないんだ」

すると、カミラは一気にしょんぼりとしてしまった


まるで気の抜けた風船のように萎み、自分の心には槍が刺さったように感じてしまう

目の前の美しい花を傷つけてしまった痛みが、もっと傷つけずにできたのではないかと、一瞬にして後悔の念に苛まれた


まるで絵画を汚すように、料理に塩をぶちまけるように、楽器の音を重ねるように、完璧な美しさを崩してしまった気分だ

 

「そっか…」

肩を落とし、静かに呟くカミラ

それを見て、更に胸の傷が深くなる


「安全を確認したらすぐに呼ぶから、ちょっとだけ待ってて!」

そうだ、安全性を確認してから呼べばいいんじゃないか


それを聞いたカミラは、一気に笑顔を取り戻して言った

「分かった!早くしてね!」


胸の傷が治っていく感覚を覚えて撫で下ろした

カミラも、安堵と歓喜で顔が包まれている 

そして、安心しながら地面に置いていたハープを掴み上げた


「待ってる!」 

カミラはそう言うと、走って自分から距離をとった


カミラとの距離を確認した後、自分がハープの弦に触れると、これから奏でる音に大きな希望を感じる


もちろん楽器を奏でるのは初めてだが、何度も練習をしてきたような自信がどこからか沸いてくる


根拠のない自信などではなく、本当に奏でてきたような不思議な感覚だった


慣れた手つきで左手を弦に当て、右手で弦を弾く


すると、天使の奏でる竪琴のように美しい音を響かせた


前に聞いた鐘の音よりさらに美しい音、人の奏でる音として最高級の音色が、自分を中心に広がる


自分が奏でた美しい音色に、自分自身が魅入られる

地面や空気中を流れ、人だけでなく空間すらも魅了し、音は遠くまで進んでいく


音に気をとられ耳以外の五感を遮断していると、遠くから大声が聴こえてきた

「クラルス!」


ハープの音が届かない場所から、カミラが大声で叫んでいる

何か起きたのかと呑気に目を開くと、その瞬間目の前の光景に絶句した


地面は上昇し、空気は嵐となって草と共に暴れている


まるで地震でも起きたかのように、割れ、隆起し、湾曲を起こしている


剣が自分で暴れているかのように、風が物を切り裂いている


歪んだ地面や草が、まるで殺しにきているかのように自分を覆う


現実感を忘れ、自分は災害の中心で立ち尽くしていた

 

中心にいて逃げられない状況で、空を眺めた


先程の青い空が無限に広がっている


もしかしたら、次の瞬間には死んでいるかもしれない

そう考えると、乾いた目玉から涙が溢れた


この綺麗な空をもう見られなくなる、もっと家族の事を知りたかった、クラウィール義兄さまやアルブともまだまだ一緒にいたい


「う…うぅ……」

目から溢れた水分が、自分の視界も歪ませる


幻想局に騙された、そんな事はどうでもいい

今は、ただ生きたい、それだけだった

 



死、それは生物が最も恐れる現象、存在が消失するという圧倒的な恐怖、絶対に人の手によって引き起こされてはならない行為

それだけは自分の魂に刻まれた無二の気持ちだ


それが今、自分の目の前にあった

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