第百十六話 当然の怒り
クラウィール義兄さまが目を覚まし、食堂まで歩いてきていた
寝起きながらも、時間を見て食事時だと判断し、何の外傷もない体を不思議に思いながら、その足を動かしている
「失礼します…」
そう言って、食堂の扉を開いた
…だが、タイミングの悪いことに、その時は丁度食事が始まっていて、クラルスの隣にマグヌムが座っている
マグヌムは、オーウィ義姉さまの料理に魅了されながら、それをより強く感じるために、その他の感覚を出来るだけ遮断している所だった
ウィルスール義兄さまとグローリア義兄さまには、マグヌムと出会う前に説明出来たものの、クラウィール義兄さまにはまだ、一切の説明をできていない
もちろん、何も知らないクラウィール義兄さまが、そんな光景を見て驚かないはずもなく
クラウィール義兄さまの笑顔が、徐々に怒りに包まれていきながら、マグヌムに向かって走り出していた
机に置いてあったナイフを握り、マグヌムへと足を進める
「義兄さまっ!???」
「……っ!マグヌム!」
突然の事に驚愕し、ほとんどの義兄弟は食事を口に含ませたまま、クラウィールの動きを眺めている
自分は、クラウィール義兄さまに声をかけたが、それには一切反応する様子はない
だが、自分とは違い、グローリア義兄さまはマグヌムに向かって、少し残った感覚を刺激するように、大きな声で呼びかけた
その声に反応したマグヌムが咄嗟に目を開くと、まさに鬼のような表情で迫っているクラウィールが目に写った
誰にも邪魔されず、クラウィール義兄さまは、マグヌムに向かってナイフを振り下ろし始める
食事を飲み込み、ナイフを避けようと後ろにのけ反ると、バランスを崩したマグヌムは、椅子と一緒に後ろに向かって倒れ込んだ
地面に頭を打ちながらも、殺意を向けられて動きを止める者はおらず、
マグヌムは地面を後ろに這って、クラウィール義兄さまから距離を取った
「クラウィール、落ち着くんだ!」
グローリア義兄さまが立ち上がり、マグヌムへの殺意を隠そうともしないクラウィールを、羽交い締めにして動きを封じる
「はぁ…はぁ…はぁ……」
荒れた呼吸をするマグヌムは、目の前の敵にしか興味が無く、羽交い締めにされながらも、腕や足を動かし続けていた
─それから、クラウィール義兄さまを落ち着けるまで、かなりの時間が経った
怒りで前が見えていないようで、義兄弟全員と、使用人三人ほどで、なんとかその場を収めることが出来たが、もしマグヌムがまだこの場にいれば、この惨劇のようなものはもっと続いていただろう
クラウィール義兄さまが落ち着き、自分はマグヌムがいる事に対する説明をした
納得したのか、そうじゃないのか、
とにかく、なんとかマグヌムを客人として受け入れ、その後クラウィール義兄さまは、いつもに増して料理をたくさん食べていた
食事の後、クラウィール義兄さまが話しかけてきて、深い謝罪と感謝を告げられたが、そもそものきっかけは自分だから、それを言うのは自分のほうだ
そう伝え、その場は何も起きずに、平和に収まった
─これまた数日後、
義父さまが調子を取り戻し、今日から仕事に復帰するそうだ
溜まりに溜まった書類の山を、片っ端から終わらせていく
クラウィール義兄さまも凄かったが、義父のそれは、義兄さまとは比べ物にならないほどに、素早い速度でこなしていた
おかげで家事も落ち着き、やっと、いつもの日常が帰って来たようだった




