第百十三話 敵だった客人
「離せぇ!私はしなければならないことがあるのだ!」
「落ち着いてくださいっ、まずは体の健康状態を確認しなければならないでしょうっ」
マグヌムと、押さえ付けている使用人の一人が、体を組みながら言葉を交わしていた
三人がかりでマグヌムの動きを止めているが、それでもマグヌムは少しづつ前進しているようだ
どうしようか悩んだが、連れてきたのは自分なので、責任は取らないといけないだろう
そうして、自分は暴れまわるマグヌムの前に歩いていった
「マグ…ヌム…?どうかしたんですか?」
そう声をかけ、自分の姿を目にしたマグヌム
その瞬間、体の力が抜けたようにして暴れるのをやめ、表情もだんだんと緊張が抜け、少しづつ柔らかさを取り戻していった
「クラ…ルス……か?」
「はい、そうですけど…」
そう答えると、マグヌムは冷静さを取り戻し、その場で立ち方を整える
そして、彼と話をさせてくれ、と、先ほどとは全く違う様子で、使用人達に懇願し始めた
使用人達に心配されたが、自分は大丈夫だ、もし危なくなったら大声で叫ぶから、となんとか説得し、マグヌムと二人で客室に向かった
─「まずは、感謝する」
席につくなり、マグヌムにそう伝えられた
「えっ…と?」
「決まっているだろう?精神を戻してくれたことだ」
「はぁ…」
正直自分にとっては、感謝されるよりも、性格が真逆かのように変わったマグヌムに、困惑を隠せない
だがマグヌムは、まるで気にしていないかのように話を続ける
「十二年間抵抗し続けた僕だったが、君がいなければとっくに諦めてしまっていただろう
君には、心の底から感謝をしているんだ」
「それは…良かったですけど、なにか…性格変わってませんか?」
「ん?…あぁそうか、君は知らないのだな
精神というものには、産まれた時点で元々の性格というものが備わっているのだ
幼い頃はあまり表に出てこなくとも、成長と共に少しづつ表に出てくる
その時は普通、精神の性格と成長で得た性格が混ざるものなのだが、僕は、知っての通りずっと意識の底に沈んでいたのだ
だから僕は、成長による性格がなく、精神に備わっていた性格だけが、今表に出ているということだ
君も、幻楽器を操るのならば覚えておくといい」
自信気にそう言われたが、自分は満足に理解することは出来なかった
とはいえ、幻楽器をこれから使う予定も無いので、深堀りするのはやめておき、次の質問をすることにした
「そうなんですか…
…じゃあ、なんでさっき暴れていたんですか?」
「……それはな」
マグヌムの表情が少し沈む
聞いてはいけなかったのだろうか、そう思い、先ほどの言葉を取り消そうとした時、先にマグヌムが口を開いた
「父と…母に会いたいのだ」
「っ…………」
予想外の答えに、自分は声を出すのを止めてしまった
やはり、聞いてはいけなかったと今さら後悔しても、二人の間に流れた気まずい空気は、収まることを知らない
だがマグヌムは、そんな空気を打ち破り、陽気な表情で再び話を始めた
「そういえば、ここはナルヴィー子爵の屋敷だろう?だったら、少し挨拶をしておきたいのだが…」
「あ、えっと…すみません、今子爵は病床に伏していて、ここしばらく部屋から出た様子もないんです」
「そうか…残念だな」
その後は、マグヌムの過去や、ルダスや幻楽器に関する話、現実と幻想の話や、マグヌムが自分を幻想局に誘った理由などを話した
音楽の才能を見込んで、などの、二人には詳しく分からなかった理由だったが、それを詳しく話せる者は、もうすでにいなかった
マグヌムと別れた後、マグヌムを客人として扱うことが決定した
そのため、仕事が増えたと絶望しそうになる使用人もいたが、自分も手伝うからと、なんとか使用人を説得し、その場はやっと、丸く収まった




