第百十一話 まだ助かるから
「…なんだったんだろう」
フェルミナと、幻想局の二人が消えた後を、クラルスは茫然自失として眺めていた
…異世界で、悪意は、廻り続ける、
それが、いやに懐かしく、同時に、死と同じような嫌悪感を感じた
だが、それを忘れてはならないのだろう
心の底からそう思い、
悪意が、廻り続ける異世界を、努々忘れること勿れ
その言葉を、胸に刻んだ
「クラルス、あのひとたち、たすける」
茫然としている最中、メミニから声をかけられた
そうだ、自分が今すべきなのは、言葉を記憶に刻むことではない
早く義兄さま達を助けなければ
「それじゃあメミニ、あそこの……」
と、そこまで言って気がついた
メミニは、あそこにいる四人の内、マグヌムの事しか知らないのだった
なので、前と同じように、三人をマグヌムと同じ所まで運んで貰うように、身振り手振りで伝えた
ほとんど外傷はないが、顔が水分でぐちゃぐちゃになっている、ウィルスール義兄さま
顔の半分が内出血で膨らんで、体中にも擦り傷が無数についている、グローリア義兄さま
そして、体中の骨が折れ、片腕に至っては胴体と泣き別れしてしまっている、血と膨らみで、もはや原型も分からなくなってしまった、クラウィール義兄さま
なんだかんだ三人共、脈はあるようだが、クラウィール義兄さまは、いつ無くなってもおかしくないほど、弱々しくなっていた
「…っ……どうしたら…」
とりあえず、肩を縛り血を止めたが、それでもいつまで持つか分からない
先ほど、メミニに回復が出来ないか聞いたが、さすがのメミニでも、回復の魔法までは出来ないらしかった
……そうだ、
さっき自分に使ってくれた、あの法陣が描かれた紙
それがあれば、なんとか……っ
そうして、クラウィール義兄さまとウィルスール義兄さまの服を隅々まで漁り、破りまでしたが、
結局、桃色の法陣が描かれた紙は、見つかることはなかった
こうしている間にも、義兄さまの命の期限が刻一刻と迫っている
……どうしたらいい、どうすれば助けられる、何を、どこに、どうしたら……っ!
「……大丈夫か?」
義兄さまの体にうずくまっていると、後ろから聞き覚えのある声が届いた
先ほど、二人だけの決闘をして、アルカナタクトを託された人物
そうだ、そこにいたのは、キャピオだった
キャピオは、使い物になりそうもない二つの腕をぶら下げながら、不思議そうにこちらを見つめている
「キャピオ……
えっ…と、この、義兄さまが死にそうで、脈も弱くて、その…魔法の紙を探してたんだけど見つからなくて…あの……」
「とりあえず落ち着け、
まだそいつは助かる、だからそんな泣きそうな顔するな」
…その時初めて、自分が涙目になっていることに気がついた
どうやら、自分でもわからなかったほどに、自分は焦っていたらしい
そうして、少し安心した後、深呼吸をして目を拭い、落ち着いた
そして、キャピオに話を聞くことにした
「まだ助かるって…どうやって……」
するとキャピオは、簡潔に、そして丁寧におしえてくれた
「ここ、幻想の世界は、精神が表にある世界だ
現実は、肉体が外で精神が内にあるだろ?
それがここでは、逆になってるんだ
つまり、そいつは精神の一部を失ったにすぎない
幻想の世界は、ただ居座るだけで精神が磨り減る世界だから、その損傷が大きくなっただけだ
まぁ、回復のための睡眠は、かなり長くなると思うが
だから、今すぐに現実に帰れば、そいつは問題なく生存できる」
少し、安心した
だが、同時に気になることも出来た
「……もし、ここで死んだら、どうなるんですか?」
その質問に、キャピオは少し沈黙した後、答えた
「……精神と、肉体は、片方を失うと、もう片方も追いかけるように死亡する」
…やはり、そうなのか
結局、あまり時間が無いことが分かったため、すぐにメミニにそれを伝えた
「…わかった、またね」
二人に感謝し、四人をナルヴィー家の屋敷の場所まで運んだ後、
幻楽器、アルカナカンパニュラを、左右に揺すった
メミニは仕方ないとはいえ、キャピオに現実に行かないか聞いた所、私はまだやることがあると言い、幻想の世界に残ることになった
そして、倒れた四人の上、クラルスの目の前で、美しい、鐘の音が響き渡った




