第百九話 失った、自身
研究所が燃え上がり、中にいた研究者がバタバタと倒れ込む
その光景を、研究所が完全に炎に包まれるまで見届け、マグヌムは向かった
親を無視し、自身の目的を叶えるための道へと
─炎に包まれ、マグヌムに話しかけたあの研究者は、抵抗も出来ぬまま、肌が焼き爛れる感覚を覚えていた
そして、その背中の皮膚が捲れた時、染み込んでいた青色の絵具が、同時に地面へと溶け落ちた
「…では、そろそろ向かいましょうか」
研究所を見続けていた女も、隣の絵画を炎の中へと投げ込み、向かった
マグヌムが向かった先と、同じ場所へと
─「…ただいま、イーデム」
いつも通り、部屋で待っていたイーデム
それに、マグヌムは新たな命令を下した
「僕はこれから、オーケストラを開く
イーデム、君も同じように、あの女を裏切れ」
イーデムは、少し抵抗しようとする素振りを見せた
だが、実際に抵抗出来るはずもなく、イーデムはそのまま、首を縦に振った
「戻りました」
そんな時、女が部屋へと戻ってきた
いつもならば、マグヌムがイーデムの話を聞いているという演技で、奴隷化を誤魔化していただろう
だが、この日に限っては、三人の間にいつもとは違う空気が流れていた
そして、そんな状況で、マグヌムは真っ先に口を開いた
「…僕は、世界一のオーケストラを開催する
そのために、僕は幻想に生きます」
どうせ断られる
そんな事は百も承知で、マグヌムは伝えた
だが、女の顔には予想と別の色が浮かんでいた
まるで、こうなることを分かっていたかのような、当たり前だと受け入れるような顔
そして、女はマグヌムに向け、助言をし始めた
「そうですか
では、開催場所は最優都市ストルゲの、ナルヴィー領が良いでしょう
あそこの領主であれば疑われる可能性も低く、楽にオーケストラの準備が可能です
楽団であれば、組織として、名称も必要でしょう
幻想局、なんていかがですか?
あとは人も足りませんね
幻想種で賄いきれない人々であれば、せっかくなので、ルダスに来てもらえば、合う方を紹介しますよ」
女は少し興奮気味に語った
裏切ろうとする相手への行動ではないと思っていても、それは騙そうとする雰囲気ではなく、完全な善意としての助言のようだった
その後は、滞りなく進んでいった
現実のナルヴィー家の場所に、想造で小屋を立て、幻想種に音楽を教え、目的を果たすために動いた
女からは、ルダスから小屋へ、小屋からルダスへと移動出来る、ワープの術式が刻まれた紙と、そしてキャピオとスペクラートという、幻想局に入る実力を備えた人物を紹介してもらい、仲間として取り込んだ
それからも、ルダスから幻楽器を運び出し、迷い込んだ者がいれば、実力を見て仲間に誘った
定期的に来る真珠の耳飾りをつけた者も、邪魔をしていたため追い返す
ルダスと小屋を往復し、世界一のオーケストラを開くため、苦労に苦労を重ねてきた
何度も何度も、リハーサルを重ね……
あぁ、そうか
化物か
世界一と願い、目的とし続けたが故
僕は、マグヌムを失ったのか
──マグヌムは、地面へと倒れ込んだ




