第百六話 想造
マグヌムは、目標を達するために、動き始める
まず、洗脳したイーデムを手駒にするため、様々な命令を与えた
「僕よりも下の音楽家になれ」
「僕に音楽を、オーケストラを教えろ」
「僕に従え、誰にも知られずに」
自身の手駒とするための命令を、イーデムという相手に刷り込んでいく
女にバレないように、二人きりの瞬間にだけ
自身の命令を全て受け入れるイーデムを見るのは、かなりの爽快感があった
確実に自分よりも立場が上の相手を従える
マグヌムは、上に立つ者として、味わってはいけない高揚感を、心の底から感じていた
普段通りのように見せながらも、裏では真逆の関係性になる
バレていないと思っていただろうが、女はすでに把握しており、それどころか、作戦通りとでも言いたげに、わざと席を外す時間を増やしていた
目的を達するために、マグヌムは次へと動き始めた
理想の、自身に相応しい舞台を求めて
そして、鐘を鳴らした
アルカナカンパニュラによって行ける、幻想の世界を知るために
いつもの部屋で鳴らしたため、マグヌムと近くにいたイーデムは、そのまま空中に放り出されてしまった
だが、マグヌムはそれが起きることを知っていた
落下によって、少しのパニックに陥っているイーデムの手を繋ぎ、自身の頭を今までで一番の速度で回す
──幻想の世界には、想造と呼ばれる力がある
想像を、妄想を、幻想の世界にのみ、一時的に実際に発生させる力だ
想像により生み出されたこの世界は、そうだ、その者の想像力次第で、いくらでも作り替えることが出来る
たとえ、それがコンサートホールのように巨大でも、物理法則を無視していようと、想像を現実に出来るほど精巧にすることで、全てが可能となる
想造を実際に起こすため、マグヌムは、頭の回転を、今までに無いほどに早くした
こうなる可能性も把握していたため、そのための準備もしてきた
そうして頭の中に描く光景が、現実のようにはっきりと、そうなっていると勘違いするほどにまで達した時
─マグヌムの背中には、巨大なパラシュートが展開されていた
そして、想造を実感する前に、マグヌムとイーデムの体は、落下の速度を格段に落としていた
地面に落ちても問題無いほどにまで
「…危なかったぁ、意外となんとかなるんだ」
地面に降りた二人は、幻想の世界での法則の乱れや、想造の力、そして、自身の体に起きる異変を、少しの時間をかけて体験していった
幻楽器の本により、ある程度は把握していた
だが、それを実際に体験するという特別感に、二人のルダスの血が騒いでいた
時間の流れが遅くなるなどの、対照しなければならないものは無視し、疲れや痛みなどの解りやすいものは、すぐさま実験、体験していった




