第百五話 歪んだ考え
あってはならない
自分こそが、世界一の音楽家なのだ
バッハルにある、残った欠片の影響で、マグヌムの思考は大きく歪んでいた
自分こそが、世界一の音楽家だ
自分よりも上はいらない
僕よりも上が現れないためには…
そんな思考を持っていた中に現れた、自分を越えていると確信できる相手
元から歪んでいたマグヌムは、それにより、さらに歪み、狂うこととなった
「ではこれからは、本の続きとなる、高度な講座をお願いします」
「分かりました」
そうして、本の続きとなる、イーデムの講座が始まった
今日だけでなく、次も、その次も、同じような講座を受け続けることになっていた
本の代わりで、来る度に何度か話を聞いていると、確かにしっかりとした内容で、確実に自分では思い付けないような手法も多く存在した
作曲家として、演奏家として、指揮者として、どれを取っても歯がたたない
それを、たったの数回で、骨の髄まで分からせられてしまった
──だがそれが、マグヌムには、どうしても許せなかった
世界一の自分が、出来ないことをやり遂げる
それは、今の、バッハルの精神では、これ以上ない屈辱だった
そうして、歪んだ思考で考えていたマグヌムに、一つの案が浮かんだ
……逆に考えると、このイーデムがいなくなれば、自分は再び世界一に立てるのではないか?
─そんな、本来ならばあり得ない考えに達したマグヌムは、積まれた幻楽器へと足を進める
そして、その中から、一つの楽器を手に取った
「…僕が、世界一だ
僕を越える者が現れたら…それは、許されない…んだ」
マグヌムが過去に受けた物と同じトランペットを、マグヌムは手に取った
そして、その時のために持っていた耳栓を付け、トランペットに口をつける
マグヌムは、止まることはない
イーデムの後ろから、知られぬ内に、その幻楽器へ息を流し込んだ
「……っ!」
美しい、心を震わす音色が、その部屋を埋め尽くす
イーデムが、その音に反応するよりも早く、音はイーデムの精神へと潜っていく
そして、新たな精神を生み出した
欠片さえも存在しない、本当の、空の精神
それが、元のイーデムを底へと追いやり、その体の支配者として、存在することになった
─イーデムを見るだけでは実感は沸かなかったが、マグヌムはイーデムに「立って」という命令をした事で、成功したことを認識した
「……これが…幻楽器の……力」
それから複数の命令を出した
簡単にこなせるものから、難易度の高いものまで、様々なものを
そして、それを全て実現したイーデムを見て、マグヌムは、幻楽器の本当の恐ろしさに気がついた
マグヌムはそれを見た時、更に、新たな狂った考えが頭をよぎる
そうだ、マグヌムが世界一のオーケストラをした後に、ここにある幻楽器で全てを破壊すれば、真の世界最高の音楽家になれるのだと
元のマグヌムでは、実行も、思いつくことすら無かったであろう、そんな考え
それからのマグヌム・バッハルは、それだけのために、動き続けることとなる




