第百四話 優れた音楽家
マグヌムが、七日置きに煉瓦の道へと通い、抵抗する精神を沈ませ、本を読み続ける生活を続け、数年が経過した
研究所での生活も特段変化したことはなく、本も最近、最後の一冊を読み終えた所だった
今日もいつも通り、煉瓦の道へと向かう
「……そろそろ、次の段階へ進みましょうか」
そしてその日、マグヌムは、女にそう告げられた
何の脈絡もなくいきなり告げられたのだが、マグヌムが動揺する様子は、一切無かった
…命令、であることを、すでに把握していたから
「今まで、一人でいる時以外では自我を出さぬよう命令していましたが、これからは、元のマグヌムとの親交が深い者以外の前でならば、自我を出すことを許可します」
それは、言い換えると、今この時点での自我の解放の許可も下りたということだ
そして、マグヌムの普段通りであったはずの顔が、少しづつ変化する
欲望を剥き出しにしたような、狂気的なあの顔が初めて、マグヌムの肉体にはっきりと浮かんだ
自分こそ、僕こそ世界一だと、刻み込まれている精神で自我を出し、その肉体を動かす
そうだ、命令と、成長によって、僕こそ世界一だという狂気が……精神から肉体へと、伝染する
…いますぐに暴れていてもおかしくないような、そんな狂気的な表情
だが、マグヌムが動こうとするよりも早く、女は新たな命令を下す
「命令を出すまでその場で静止してください」
その瞬間、マグヌムの体が凍ったように動かなくなった
だが、そんな状態でも、声を出すことは出来たらしい
「…なぜ僕を止める?」
「君にはまだまだしてもらう事がたくさんありますからね」
そう言うと、静止しながら声を張り上げるマグヌム・バッハルを無視して、女は部屋の隅まで歩いていった
入った時は気付かなかったが、どうやらそこには人がいたようで、女はその人物を、マグヌムの前まで連れてきた
その人物とは、巻き髪をしている青年で、マグヌムよりも少し年上のように思えた
一目見ただけで活発だと分かる容姿で、ストレートな長髪にミステリアスな雰囲気を放つ女とは、色々と真反対のように見える
「この子はイーデム、イーデム・モーツエルト
これから、君の師匠となる人です」
「イーデムです、よろしくお願いします」
そして、マグヌムは、その者を一目見て感づいた
──この者は、自分よりも優れた音楽家だと




