第百二話 命令通りに
マグヌムの精神が変わり、一週間が過ぎた
視力と聴力が戻ったことについて、H研究所の職員はなんとか調べようと、親やM研究所の研究者に承認を求めたが、そのほとんどを突き放したらしい
理由は明白だ
子供を簡単に連れ去る事が出来るような状態で、そこへ預けても良いと答える者はいない
それに、不審者の侵入と行方不明者の追跡の失敗という事件が起きた事によって、かなりの信頼を落とすことになり、結果、H研究所の地位はルダスでもかなりの下へと落ちてしまったようだ
そうして、マグヌムはM研究所に戻り、実験も再開され、以前と同じような暮らしをすることが出来るようになった
タクトは、誰にもバレないように、常に周囲を警戒しながら、肌身離さず持っていた
命令された通りに、ただ、いつもの日常を取り繕って
とはいえ、今日は命令された当日だ
以前よりも厳重になったマグヌムの保護に、逃げ出せる隙があるとは思えないが、なんとか、守衛を撒くことに成功する
そう、深夜ならばなんとかなるのだ
誰にも気付かれぬように、マグヌムは以前のように捲れた地面の場所まで歩く
そして、その地面の隙間を覗き込み、煉瓦の道に繋がっていることを確認した
そして、なんとか体を穴に通し、煉瓦の道へ梯子を下った
周りに光はほとんど無いが、そんな真っ暗な空間を、マグヌムは、まるで全てを把握しているかのように、迷いなく進んでいく
そうしてある程度の距離を歩き、マグヌムは扉の前に立った
扉を開くと、この前と同じように、太陽のような光が広がり、マグヌムは咄嗟に目を伏せた
明るさに怯み、目が慣れる間もなかったが、同時にマグヌムの頭には聞き覚えのある女の声が届いた
「やっと来られましたか、お久し振りですね」
「……んえ?」
マグヌムが気の抜けた声で答えると、女は光を抜け、マグヌムの元へと近付いていく
そして、肩に手を置いた
「精神を、戻して下さい」
女は、命令するようにそう言った
なんのためか、それを一切知らぬまま、底に沈んでいた精神を、その肉体へ浮き上がらせた
「………」
いつの間にかマグヌムの顔に、少しの雫が浮かび始めた
目尻から、だけでなく、全身の肌からも少しづつ汗が滲み出る
悲しくて、嬉しくて、感動して、少し恐れて体を震わせる
「……あ……あぁ………………あ、あ?」
マグヌムの、ヴェールの語彙が無くなっている
いったいいつぶりだろうか
自分の意思で、自分の声を、響かせ、聞くのは
鳥肌と、冷や汗と、ぐちゃぐちゃになった感情が、体の、爪の先まで暴れ狂う
七歳にして、ここまでの、
……いや、ここまでくると、言葉で表せるほどではない
そんな、狂ったような感情に、マグヌムは歓喜し
……絶望をした




