第九十八話 治療中
事故の後、マグヌムへの実験は全て一時凍結
マグヌムは親とも離され、最終的にはH研究所と呼ばれる、医療関係の研究所で過ごすこととなった
ルダスの研究者達は、淡い期待と希望を抱きながら研究所へと送った
だが、マグヌムにとって、そこで暮らすというのは苦痛意外の何でもなかった
親元を離れ、今までの顔見知りも一人としていない
音楽の天才として注目され続けたマグヌムは、目も耳も使えぬという孤立無援の状態、そして、握りしめてくれていた温かな手、その全てを失った表情が、暗くならないはずがなかった
「ねぇ、誰か!誰かいないの!?ここ、真っ暗で音もないから怖いよ!」
声は、確かに届いていた、そして助けようと動いた者もいた
だがそれを、マグヌムが認識出来る日は来なかった
暗闇の中、ただ手を握られる
それすらも、マグヌムにとっては恐怖そのものだった
研究者と、そしてマグヌムが、それらに慣れたのは、約二週間後の事だった
この点、マグヌムは恵まれていたのかもしれない
普通ならば発狂してしまうような、そんな状態で何も分からない恐怖を受け入れる
普通であれば、大人であろうと、耐えられるはずもないほどだ
それから約一年後
歪みとはいえ、研究者の努力によって、術式の効果を少しは押さえ込めた頃
マグヌムは完全ではないが、確実に最初期よりは症状が緩和していた
目は、完全な暗闇ではなく、少しの光ならば認識出来るように
そして耳は、人間の言葉までは難しくても、ピアノの音階でソの音だけは、少し聞き取れるようになった
少しは改善したとはいえ、まだまだ完治には程遠い状況
それにも関わらず、マグヌムは現在ピアノを弾いていた
ピアノの響板に押し当てた指揮棒を咥えながら、音を聞き取り弾いているのだが、これはどういうことか
それは、研究者の一人が回想した、骨伝導を利用した物だ
マグヌムの先祖もしていた方法で、音を直接骨に届け、蝸牛に伝える事で、振動を音として認識する技術
それを利用する事で、孤独で静かな暗闇を、少しは緩和することが出来た
とはいえ、緩和できただけだ
まだ、マグヌムが孤独な世界で生きているという状況は、変わらない




