第八話 間食
書斎の片付けを済ませると、義兄さまはそそくさと出ていってしまった
本当の事を言うと、この後剣を教えて貰いたかったところだが、仕方ないので肩を落として書庫に向かう
書庫には相変わらず誰もおらず、防音室にいるように静かだった
本を読むならば最適だ
改めて勉強したいところだが、今は情報収集が優先だ
そのために、書庫にあるルダス関連の本を集める
そしてそれを片っ端から読み漁っていく
ルダスの地形、ルダスの過去、幻楽器について、などは山程書かれているが、どの本にも幻想局という組織は書かれていなかった
もしかしたら書かれているのかもしれないが、今の自分には理解出来ない言葉が多すぎる
集めてきた本の約7%を読み終えた所で、ふと窓から射す光が赤くなっている事に気づく
同時にお腹から書庫を埋め尽くすほどの呻き声が聞こえた
思えば、朝からずっとご飯を食べるのを忘れていた
もうすぐ夕飯だが、少しくらいならば間食をしてもいいだろう
小さな罪悪感を抑え込み、台所に走る
たどりつくと、四人ほどが夕飯の用意をしており、そこには義理の姉の姿もあった
オレンジに輝く髪に柔らかな曲線の体つき、間違いない
彼女は上から三番目の義姉で、名前はオーウィのはずだ
クラウィール義兄さまとは違って厳しい所もある人物だったはずで、前につまみ食いをした兄弟に一時間近く説教をしていたらしい
タイミングの悪い人だ
確かにオーウィ義姉さまは多才で、色々と手を出しているらしいが、今日に限って料理なんて…
これでは間食どころの話ではない
仕方ない、大人しく夕飯まで待とう
…いや、良いことを思い付いた
義姉さまが作っているのは夕飯用ではなく、趣味で作っている料理だ
であれば、味見という名目ならば貰えるのではないか?
つまみ食いではなく、しっかりと許可を取って食べられるし、義姉さまも味の感想が聞けてウィンウィンではないか?
そうと決まれば実行あるのみ
こっそりと義姉さまの後ろに迫り、料理の様子を覗き見る
作っているのは魚料理だろうか?離れた所からでも魚のいい香りが感じられる
そして希望を持って義姉に声をかける
「オーウィ義姉さま、何を作っているのですか?」
すると、義姉さまはそのまま手を動かし続けて言った
「クラルス?珍しいわね、もうすぐ完成するからちょっと待ってて」
これは、期待しても良いのだろうか
離れた場所で数分間待っていると、義姉さまは盛り付けられた料理を運んできた
まるで絵画のような料理だ
魚介がカラフルな野菜に囲まれて、中央の白身魚がより一層美味しそうに見える
魚を丸々一匹をのせたその料理は、趣味と呼ぶにはあまりに豪華な一皿だった
「義姉さま、これは?」
「アクアパッツァよ、丁度良いし食べていって」
そういうと、義姉さまは三枚の皿を取り出して、内一枚の皿に義姉さまの分を取り分けた
何故、三枚用意したのか疑問だったが、すぐに答えは見つかった
台所の入口から、ドタドタと激しい足音が聞こえる
義姉さまはもちろん、あまり他の兄弟と関わらない自分ですらその正体が分かった
六番目の義兄、現在10歳で暴飲暴食を繰り返す、ウィルスール・ナルヴィーだ
彼はいたって普通なのだが、食事の事となると制御が効かなくなった機械のように、飲んで食べてを繰り返す
そして、前につまみ食いをした張本人らしい
ウィルスール義兄は食事の時はいるが、それ意外の時はどこにもいないと、幽霊みたいな扱いを受けているため、自分でも把握はしていた
そんな義兄が来るのも、オーウィ義姉さまには分かっていたのだろう
まぁ、彼は胃の容量が常人の何倍もあるため、いくら食べようと問題はない
だから義姉さまもこんな料理を趣味で作ったのだろう
「いただきます!」
いつの間にか隣に座っていたウィルスール義兄さまが魚介や野菜を口に運ぶと、まるで吸い込まれるようにして料理が口の中に消えていく
どちらかといえば細身の体に、大量に入っていく
もうすでに三割が消えた料理を見て、自分も急いで取り分けた
美しい料理を目で味わい、慎重に魚を口に運ぶ
口に含むと、野菜の甘味や酸味、魚介の旨みが染み込んだダシなどが、中央の白身魚をより一層に引き立てて、口の中で絶妙なハーモニーを奏でている
プロの料理人とも張り合えるであろうその味は、自分を一瞬で魅了した
「これ、本当に美味しい!」
「そう?ありがと」
隣で休む暇なく食べている義兄を尻目に、自分と義姉は言葉を交わす
義姉は、自慢気にするでもなく、ただ二人の様子を見ながら料理を味わっていた




