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石畳の広い訓練場には、既に十数体のアイがいた。
それぞれが異なる武器を持ち、向かい合っている。朝日が武器の刃に反射し、キラリと光る。
「お、なんだここ……?」
パーティのひとりが、城の内部を案内していたアイに問うと、彼は軽く首を傾げて微笑んだ。
「ここは訓練場だよ。まあ、実戦向けの訓練というより、“試運転”の場所だけどね」
「試運転?」
その瞬間――
「おらああああああああッ!!!」
「――よし来たぁッッ!!!」
ドォン、と地面を打つ音が鳴った。
見ると、一対のアイがとんでもない衝撃波を起こしながら、剣と斧で斬り結んでいた。風圧で地面の砂利が舞う。
「うお!? あいつら、殺す気かよ!?」
「うん、たぶん違うよ? 殺し合いに見えるけど、あれは“感触の確認”してるだけ」
「どんな感触だよ!」
その隣では、今度は槍と鎖鎌を持ったアイたちが戦っていた。鎖が空中でうねりながら閃き、槍の間合いを翻弄する。
「ちなみに、ここにいるのはね――もともとの武器が壊れちゃった私とか、新しい武器を作った私とか、その辺だよ。つまり、慣らし運転中の私」
「ちょっと待て、今さりげなく言ったけど、武器作ったって――お前ら武器まで自作かよ!」
「うん♪ 鍛冶場のアイがね。私たちの筋力や魔力に合わせてカスタムするの」
「はえ〜……自分のために武器作って、自分で試運転してんのか……合理的だけど、なんか怖えな……」
「ちなみに、本当に“戦い”が好きな私たちは、森に魔物を狩りに行ってるから、今ここにいるのは比較的“おとなしい私”だよ?」
「いや充分暴れてるからな?!」
そのとき、ひときわ変わった音が響いた。
ボンッ!と空気を震わせる音とともに、槍を振り回していたアイの武器が爆ぜ、煙が上がる。
「……うん、ダメか。魔力拡張炉、少し出力過剰だったな。あと0.7レベル落とすか」
「武器、爆発してね?!」
「試作三号だからね〜。気にしないで」
その隣では別のアイが、巨大なクロスボウに小さな魔法石をカチリと装填していた。
「……あの距離のターゲットに当てるには、**風の計算式を逆算して収束して……**よし」
ズバァンッッ!!
見事に的の真ん中を射抜いた。
「おおおおお……」
「ふふ、私は弓術と魔術のハイブリッド特化型だからね」
「やべぇ……」
振り向いたアイが言う。
「ちなみに、私は“狙撃が得意な私”だよ」
「分かりやすい! いやでも多すぎて誰が誰だか分からねえよ!!」
その言葉に、案内していたアイが小さく笑った。
「そういうときは、“得意なこと”で呼ぶと楽だよ。“剣のアイ”とか、“魔法のアイ”とか、“料理のアイ”とか。まあ私たち自身も、たまに自分を間違えるけどね」
「おい、それはそれで怖えぞ……!」
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訓練場の片隅では、見習いのアイが新型の小剣を手に、空振りを繰り返していた。
傍らには、鍛冶場帰りの“鍛冶のアイ”がアドバイスをしている。
「振り抜いた時の慣性を利用するのよ。手首を硬くしすぎると駄目」
「うん、ありがとう。……あっ、でもこれ重心が前に偏ってる気がする」
「さすが。じゃあ次はバランスを微調整しましょうか」
――アイの中のアイによる、アイのための研究と実験。
それがこの訓練場の正体だった。