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7

パーティが城の回廊を歩いていると、向こうの廊下から何やら慌てた様子の足音が響いてきた。


「……ん?」


バンッと勢いよく曲がり角から現れたのは――


「そこ、止まれッ!!」


――アイだった。


けれど、今まで見たどのアイよりも、なんというか……目がギラギラしていた。


手にはでっかいスケッチブック。背中にはキャンバスとイーゼル。腰には鉛筆と筆がみっちりと巻かれたツールベルト。


「ちょっとだけ、ちょっとだけでいい! ちょっと座っててくれ!!」


「え、えっ……?」


戸惑う間もなく、

脳筋の前衛がごく自然に椅子に座らされていた。

気づいたらその背後には、いつのまにか立派な木製イーゼルが立ち、白いキャンバスが設置されている。


「……えっ、なに? 描くの?」


「当たり前だろう」


「うへぇ。俺ら描いてて楽しいかよ……」


デッサンアイは、鉛筆をくるくる回しながらにやりと笑う。


「楽しいに決まっている」


「うっわ即答」


「というか、そもそも――」

カリカリ、と鉛筆を走らせながらアイは言う。


「この辺にはもう、“まだ描いていない生物”がいなくなってしまったからな。鳥も、虫も、野獣も。全部描いた」


「え、全部……?」


「うむ。だから貴様らが来たとき、私の中の“私”が叫んだんだ」


ごくり、と脳筋が喉を鳴らす。


「新しい構図……! 新しい骨格……! 新しい表情筋!!」


「いやそこまで見る?!」


「全身をスキャンするように描く。見逃さない。逃げても無駄だ」


「いや逃げねーよ!? なあこれ普通? このテンション普通のアイ???」


他のパーティメンバーが小声で尋ねると、同行している“最初に出会ったアイ”がにこにこと言った。


「うん、まあ……この私はちょっと情熱的なんだよね」


「そっちの“私”なのに、やたら全力だな……」


デッサンアイは夢中で描きながら、ふいにちらりと前衛に目をやる。


「貴様、何か忘れてないか?」


「は? なにが?」


「貴様らと同じパーティにいる私と、私とは、同じなんだよ」


脳筋がぽかんとする。


「つまり、貴様らに好意を持っているのは当たり前だろう。好きだ。描くのが楽しい。そう思うのは、理にかなっている」


「……お、おう……」


「まあ、それでも」


くいっと鉛筆を走らせる手を止めずに続ける。


「“自分のやりたいこと”を優先する私の方が多いがな」


「自己中じゃねえか!」


「でも、そこに正直だからこそ、私は“本物”が描ける」


真剣な目がキャンバス越しにこちらを見つめていた。



---


完成したスケッチは、予想以上に繊細で美しかった。


どこか癖のある筆致で、それでもパーティの前衛の力強さと優しさを――

アイの瞳から見た“仲間としての姿”が、確かにそこにあった。


「……うわ。ちょっと感動した。悔しい」


「ふふん、もっと描かせろ」


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