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パーティが城の回廊を歩いていると、向こうの廊下から何やら慌てた様子の足音が響いてきた。
「……ん?」
バンッと勢いよく曲がり角から現れたのは――
「そこ、止まれッ!!」
――アイだった。
けれど、今まで見たどのアイよりも、なんというか……目がギラギラしていた。
手にはでっかいスケッチブック。背中にはキャンバスとイーゼル。腰には鉛筆と筆がみっちりと巻かれたツールベルト。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいい! ちょっと座っててくれ!!」
「え、えっ……?」
戸惑う間もなく、
脳筋の前衛がごく自然に椅子に座らされていた。
気づいたらその背後には、いつのまにか立派な木製イーゼルが立ち、白いキャンバスが設置されている。
「……えっ、なに? 描くの?」
「当たり前だろう」
「うへぇ。俺ら描いてて楽しいかよ……」
デッサンアイは、鉛筆をくるくる回しながらにやりと笑う。
「楽しいに決まっている」
「うっわ即答」
「というか、そもそも――」
カリカリ、と鉛筆を走らせながらアイは言う。
「この辺にはもう、“まだ描いていない生物”がいなくなってしまったからな。鳥も、虫も、野獣も。全部描いた」
「え、全部……?」
「うむ。だから貴様らが来たとき、私の中の“私”が叫んだんだ」
ごくり、と脳筋が喉を鳴らす。
「新しい構図……! 新しい骨格……! 新しい表情筋!!」
「いやそこまで見る?!」
「全身をスキャンするように描く。見逃さない。逃げても無駄だ」
「いや逃げねーよ!? なあこれ普通? このテンション普通のアイ???」
他のパーティメンバーが小声で尋ねると、同行している“最初に出会ったアイ”がにこにこと言った。
「うん、まあ……この私はちょっと情熱的なんだよね」
「そっちの“私”なのに、やたら全力だな……」
デッサンアイは夢中で描きながら、ふいにちらりと前衛に目をやる。
「貴様、何か忘れてないか?」
「は? なにが?」
「貴様らと同じパーティにいる私と、私とは、同じなんだよ」
脳筋がぽかんとする。
「つまり、貴様らに好意を持っているのは当たり前だろう。好きだ。描くのが楽しい。そう思うのは、理にかなっている」
「……お、おう……」
「まあ、それでも」
くいっと鉛筆を走らせる手を止めずに続ける。
「“自分のやりたいこと”を優先する私の方が多いがな」
「自己中じゃねえか!」
「でも、そこに正直だからこそ、私は“本物”が描ける」
真剣な目がキャンバス越しにこちらを見つめていた。
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完成したスケッチは、予想以上に繊細で美しかった。
どこか癖のある筆致で、それでもパーティの前衛の力強さと優しさを――
アイの瞳から見た“仲間としての姿”が、確かにそこにあった。
「……うわ。ちょっと感動した。悔しい」
「ふふん、もっと描かせろ」