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「……あのさ、アイ」


「うん?」


「もしかして、玄関ホールにいたのが……“全部”ってわけじゃないよな?」


「ん、ああ、違うよ」

アイはあっさりと言った。


「たまたま手が空いてて、なおかつ君たちに興味がある“私”が、あそこに集まっただけさ」


「“たまたま”で30体……?」


「え、ちょっ、じゃあ全部で何人いるのよ!?」


「さあ?」

アイはにっこり笑った。

「もう、数えるのもめんどくさくてね〜」


「…………ひええ」



---


広大な回廊の奥、パーティは一歩一歩を慎重に踏み出していた。


右を見れば、部屋の中でキャンバスに絵を描いているアイ。

左を見れば、無音でひたすらパイを焼いているアイ。

廊下の片隅で、詩集を読みながら涙ぐんでるアイもいれば、

柱にもたれて寝てるアイ、窓辺でぼーっと夕陽を見つめるアイもいる。


どのアイも、やっていることもテンションも違う。

でも、不思議とどこかに「同じ人感」があるのが、余計に脳が混乱する。


「いや、え、なんで寝てるの? ここ廊下じゃん!?」


「うん、眠かったからね」と、寝そべったまま返すアイ。


「この人に話しかけてもいいの……?」


「私に?」と、そのアイも微笑む。


「アイってアイだけど……その……“同一人物”なんだよね?」


「“全部の私”で、“私たち”で、時々“お前ら”でもあるよ」


「うわあ哲学!!」



---


城の中庭。


そこでは“ガーデニング専門のアイ”が、花の手入れをしていた。

整然と咲いた花壇の中に、明らかに毒草っぽいのが混ざってるのを見て、

パーティのヒーラーが青ざめる。


「あ、これ……触ったら皮膚溶けるやつじゃ……」


「うん、綺麗でしょ?」


「いやいやいやいやいやいやいやいや」



---


別の部屋。


彫像と噴水のある美しいホールでは、バレエ衣装を着たアイたちが、完璧なシンクロで踊っていた。


「美しい……けど多い! すごい……けど多い!!」


「ねえ、アイって毎日こうなの?」


「そうだねぇ、誰かが何かやりたいって思ったら、その“私”がやるってだけさ」


「え、じゃあ料理人のアイが料理して、食べるのは――?」


「食べたいアイが、食べるよ」


「じゃあ眠いアイが寝て、遊びたいアイが遊んでるのか……」


「うん、完璧な分業制ってわけでもないけどね。だいたいそんな感じ」



---


途中の小部屋。


無表情で天井を見つめてるアイがいた。完全に無言。微動だにせず。


「………………こっわ!!」


「あれ? アイ? あれはどうしたの?」


「あー……多分あれは、考えごとしてる“私”だね」


「寝てるんじゃないの?」


「いや、たまにそういうモードになるんだ。“一人で考えたい気分の私”」



---


そんなこんなで、パーティはとにかく**アイ!アイ!アイ!!**に囲まれて、感覚がバグり始めていた。


でも――


ふと、先頭を歩く元のアイが振り返って言う。


「どう? うちの家族たち、ちょっと変わってるけど……悪いやつはいないよ」


その笑顔は、いつものように、どこかのんびりしていて――

でも確かに、あたたかかった。


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