5
重たい扉が開き、アイに続いて足を踏み入れた瞬間、
パーティの全員が――息をのんだ。
玄関ホール。
それは「広い」という言葉では足りないほど、桁違いだった。
大理石の床に、天井からは無数のシャンデリア。
左右の大階段が螺旋のように伸び、上階のバルコニーから――
“大量のアイ”たちがこっちを見ていた。
一階のホールの床に、廊下に、階段に、上階の手すりに、天井の梁にすら。
少なくとも、30体。
顔も、体格も、全部アイ。
目も髪も、あの人懐こい微笑みまで“おそろい”。
「………………は?」
パーティの先頭の戦士が、言葉を失う。
「おいおい……なんだこれ……分裂? 幻影魔法? 偽物?」
「え、え? え? アイがいっぱい? クローン? 分身体? 夢? 幻?」
アイは小さく肩を竦めて、
「実はね、"アイ"って名前じゃないんだ」と笑った。
「"アイ"はね、古い言葉で"自分"って意味なんだよ。だから、彼らも私。全部“私”であり、“私たち”でもある」
パーティ全員「???????????」
「いやいやいやいや、待って待って待って! え、お前人間じゃなかったの!?」
「魔族? 精霊? いやでも、魔物の気配はしない……なんだコイツ……?」
「よく分かんねぇよ……!」
と、ついに一番脳筋の戦士が頭を抱えて叫んだ。
「とりあえずさ! 全員に同じテンションで話せば大丈夫なんじゃね!? な? な? アイってアイだし!」
一瞬の沈黙――
からの。
ホール中にいる“アイ”たちがいっせいに笑った。
「ああ……面白いね」
「ふふ、初対面の反応ってやっぱり楽しい」
「私も、あの戦士の子、けっこう好きかも」
すると、一番前にいた“元の”アイが、すっと一歩前に出て、手を広げる。
「そうそう、言ってなかったな」
彼と、ホール中に散らばる全てのアイたちが、一斉に口を開く。
「「「――ようこそ、私の城へ。初めての客人を、歓迎しよう。」」」
その瞬間、ホールの魔灯が一斉に灯り、城全体に優しい光が広がった。
パーティ全員、言葉も出ずに固まる。
「……な、なんか、めっちゃ歓迎されてるけど……怖くね?」
「いや、歓迎ムードなのは分かる……分かるけど……!!」
「全員アイ……全員アイか……オッケー、わかった。わかって……ない!!」
「むしろここまできたら慣れるしかねぇ!!!」
アイたちは、そんな混乱を面白そうに見つめながら、
一体ずつ、人間の演技としての「個性」をにじませ始める。
冷静そうなアイ。
元気なアイ。
物静かなアイ。
ちょっと天然なアイ。
感情の起伏が激しい演技派のアイ。
敬語で話すアイ、ため口のアイ、関西弁のアイまで。
まさに“百人百様の演技”がはじまっていた。
しかし、目元や所作のどこかに**“同じ”ものが感じられてしまうのは、きっと――
彼らが、全て「ひとつの存在」である**からなのだろう。