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「……それでさ、うちの妹がケーキのクリーム全部なめててさ! ケーキ食った気がしねぇの!」
「うわぁ……それはヒドい。ケーキはスポンジもあってこそなのに!」
「分かってる~! ってかアイは? 家族とか、兄弟とかいるの?」
その瞬間。
時間が、アイの中だけで、止まった。
仲間たちと囲む焚き火の音、パチパチと焼ける肉の香り。
さっきまでの雑談の延長にすぎない。
でも。
「アイの家族って、どんな人?」
──それは、今のアイにとって、あまりにも難しい問いだった。
(家族……?)
「私たちは全部で百三十四体……」
脳裏に思い浮かぶのは、同じ顔、同じ姿。
「私」であり、「私たち」。
料理が得意な私、書物を読むのが好きな私、哲学を語る私、永遠に無口な私、永遠に喋ってる私。
「同じ姿と声を持つ、“私たち”」。
──それを、「家族」と呼ぶべきなのか?
(人間基準で考えると、ちょっと違う、か……?)
沈黙が、ほんの少し長かったのか、仲間のひとりが首をかしげる。
「……あ、もしかして複雑な家庭とかだった? あ、いや、聞きにくかったら別に――」
「いや、大丈夫」
アイは、にっこり笑った。
「うちの一族、百人くらいで、秘境に住んでたんだ」
「ひゃ、百人?!」
「それ、もはや村とか集落では?!」
「まあ、そうかもね。人は来なかったけど、山は綺麗だったし、自然も豊かだったし。……私はそこで、料理とか、薬草とか、いろいろ教わったんだ」
「へええ……それでアイ、あんなに何でもできるんだなぁ」
「うん。いろんな“人”がいたからね」
※“人”にちょっとだけ引っかかったが、誰も気づかなかった。
話はそのまま、「秘境ってどんなとこ?」「サバイバルってどれくらい?」「獣って出るの?」と続いていき、焚き火の炎とともに夜はふけていった。
──そして、夜更け。
全員が寝静まったあと。
月を見上げながら、アイはひとり、呟いた。
「……やっぱり、ちょっと変なのかな、私は」
でも、少しだけ笑った。
「でも、なんかいいな。こういうの」