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「なあ、次はどんな“私”なんだ?」
パーティの誰かがそう尋ねると、案内役のアイが微笑んだ。
「じゃあ、次は“近い私”と“おしゃべりな私”に会いに行こうか。ふたりはだいたいいっしょにいるから」
「“近い”ってどういう意味だ?物理的な?」
「……まあ、見れば分かるよ」
そう言って案内された先は、城の中央にある小さな広間だった。
ふわふわのソファとクッションがたくさん置かれていて、陽当たりもよく、なにより――空気がやたらとやわらかい。
「あっ、来た来たー!」
声をあげたのは、“おしゃべりな私”。
しゃべるのが大好きで、感情のままにどんどん話題を投げてくる、笑顔が絶えないアイだ。
「はじめまして!いやー、人間ってやっぱ顔のつくりが複雑だよね!目の動きとか、口の端の形とか、ほんとおもしろい。ね、君たちってどうやって感情隠してんの?ねえねえ、何食べて育った?え、昼ごはんなに?あ、そうだ、“眠い私”のとこ行った?あれ、いいよね~あの部屋……」
「う、うるせぇな!?質問が止まらん!息してるか?!」
「してるしてる!でも息より言葉の方が多いかもね~!」
横で笑っていたのが、“近い私”。
こちらはとにかくスキンシップが好きなアイで、誰かにくっついたり、ハグしたり、髪を撫でたりするのが大好き。
今もちょうど、別のアイの膝の上に乗って、優しく抱きついていた。
「私は、こうして誰かに触れてると落ち着くんだ。自分が“ここにいる”って実感できるっていうか……ふふ、ちょっと変かな?」
「いやいや、変じゃねえけど……なんかこう、全力で甘えてる子どもみたいだな」
「そうかも。好きな子には、近づきたいし、触れたい。それだけなんだ」
案内役のアイが補足した。
「このふたりはよく似てる。おしゃべりな私は、“繋がっていたい”って気持ちが“言葉”に出る。
近い私は、その気持ちが“距離”に出る。表現の仕方は違うけど、本質的には同じなんだよ」
「……なんか、アイって、思ってたよりずっと……人間っぽいな……」
「うん。思いのかたちが違うだけで、たぶん誰でも持ってる感情ばかりなんだ」
「そういえばさ、こうやって触れたり話したりできるのってさ、楽しいことなんだな」
「ふふ、でしょ? じゃあ今度は私にもハグさせて?」
そう言って、近い私がにっこり笑いながら、そっとパーティの一人に腕を回す。
「うわっ、ふわっふわのパジャマ!? え、違う、これは服じゃない!?なんかいい匂いするぅぅ……」
「えへへ、うれしいなぁ。やっぱり、触れ合うのっていいねぇ……」
「……あー、もうなんかよく分かんなくなってきた……!」
そんなやり取りを横で見ていた案内役のアイが肩をすくめる。
「ふふ、これも“私”の日常さ。さあ、次はどの私に会いたい?」