麻生くんは、スゴいのだ。1 キモい私のブルース。
「――そりゃもう、すごかったんだよっ! あの一見華奢に見える麻生くんがね、身体が自分の倍ぐらいはあるひったくりをね、――こうして、――こうして、――こうやってねっ! あっという間にやっつけちゃったのっ!」
――昼休み、ランチタイム。今日は天気がいいのでゆかりと理愛ちゃんと、校庭の芝生でランチ。
そんな中、私は先日の麻生くんの武勇伝を身振り手振りを交えてゆかりと理愛ちゃんに伝えようとしていた。
「――ふーん、あの、麻生くんがねぇ……。意外というか、なんと言うか……」
信じられない、と言った表情を浮かべてお弁当のウインナーを口に運ぶゆかり。
「あーっ、あんた、その顔は信じてないわねっ! 麻生くんに謝りなさいっ!」
「……いや、あんたの言うことを信じてないわけじゃないんだけどさぁ……」
そう言うとゆかりは、向こうの方で男子グループと一緒にお弁当を食べている麻生くんのことをじーっと見ながら、
「……あの、人畜無害なショタキャラでおなじみの麻生くんがでしょ? 何ていうか、いまいちリアリティが感じられないんだよね……」
「……人畜無害なショタって……。……アンタ、麻生くんのこと、そんな風に思ってたワケ?」
……ゆかりの言い方が何気にヒドい。
「……まあ、人畜無害云々は置いといて、確かにあのかわいらしい麻生くんがそんなに強いっていうのは意外だよね。……ていうか、意外過ぎてゆかりちゃんがリアリティがないって言うのもうなずけるよ。……シナリオでそんな話を書いたら、属性盛り過ぎで嘘くさいって言われてボツにされちゃうヤツだよね」
「理愛ちゃんまでぇ……」
……二人が麻生くんのスゴさをわかってくれない。
――私は最近、世の中に対しておかしいと思っていることがある。世間における、私の好きな人である麻生くんの評価が、不当に低いんではないかい?と言うことだ。
……正直言うと、私は最初、不安だったのだ。麻生くんは、カワイイし、優しいし、おまけに運動神経も抜群で強い、なんてことがみんなに知られてしまったら、あっという間に女子に人気が出てしまって、競争率が高くなってしまうんじゃないか、ヘタしたら私の手の届かないような存在になってしまうんじゃないか、と言うことを。……だがしかし、現状の麻生くんのクラスにおける立ち位置は、完全に空気だ。
男子にはその見た目から完全になめられていて、いじめられてこそいないようだけど完全に格下扱いの弟キャラって感じだし、ならば女子に人気があるのかと言えば、クラスの女子は他の背が高くて大人っぽい他の男子に夢中で、麻生くんのことは完全に眼中にないって感じだ。
……さりげなくクラスの女子に麻生くんの評価について探りを入れてみても「ああ、麻生くん、いい子だよね(終了)」って感じで、完全に女子に男として意識されていない。……これって、どういうこと?……世の人たちって、麻生くんに興味なさすぎない?
「……正直、私は覚悟してたわけよ。麻生くんをめぐって他の女子と少女漫画のような血みどろのバトルが繰り広げられることをさ……」
「……男子をめぐって血みどろのバトルを繰り広げる少女漫画なんかねェよ」
「……少女誌掲載のギャグ漫画だったら、ギリギリあるかな……」
「……なのにさ、誰も麻生くんに見向きもしないってどういうこと? あんなに可愛くて性格も良くって、強いことまでは知らなくても体育の授業とかで運動神経がいいのはわかるわけじゃん⁉ フツー、あんだけの上玉だったら、女子がほっとかないもんなんじゃないの? ……あたしゃ、拍子抜けだよ……」
「……上玉って……女子が男子に使う言葉なのかなぁ……」
「……別にいーじゃん、って言うかその方が由奈にとってはライバルがいなくって都合がいいんじゃないの? それに、麻生くん自身が今のクラスの立ち位置を不満に思ってる、って言うわけでもないんでしょ? ……今の由奈、正直ちょっとウザい……って言うかハッキリ言ってキモい厄介ファンみたいになってるよ? 好きな人が軽んじられているのが納得いかないっていうのはわからないでもないけどさぁ……」
「そりゃまぁそうだけどさぁ……。私としては頑張って努力している人がきちんと評価される世の中であってほしいワケよ……。だって、麻生くん、自分の弱さを克服しようとして一生懸命鍛錬して強くなったんだよ? 別に転生してチートスキルをもらって強くなったとかじゃないんだよ? それなのに、世の中の人が麻生くんのことをないがしろにし過ぎてなぁい?」
「……そういう努力して強くなるようなタイプの子は今どき流行んないんじゃないの?……よく知らんけど」
……スマホをいじりながらどうでもいいだろそんなこと、と言わんばかりの態度を取るゆかり。
「……適当なこと言ってんじゃないわよ……」
「それに、今の時代はああいうタイプのかわいい系ショタは女子の受けが悪いみたいだしね……。今の恋愛ものの流行りの男子はもっと見た目男っぽかったり、見た目チャラ男だけど中身は誠実みたいなキャラが主流じゃん? ……麻生くんて言っちゃなんだけど昔のゲームのサブキャラみたいな感じなんだよね。育てればすんごく強くなるのに、他の華のあるキャラの陰に隠れて使われない弓兵みたいな感じって言うか……」
「……なによ、そのメタっぽい発言は……。そんなアホなことばっかり言ってるとただでさえ少ないありがたい読者様が本当にいなくなるわよ……」
「でもさあ由奈ちゃん?」
理愛ちゃんが聞いてきた。
「由奈ちゃんは、麻生くんが人気が無かったら、麻生くんのこと、嫌いになるの?」
「そんなことあるわけないじゃんっ!」
――私は、食い気味に即答した。
「私は麻生くんが世界中の人から嫌われていたとしても、麻生くんのこと、好きでいるもんっ!」
「だったらいいじゃない、世間の評価がどうだなんて……」
「うん。……だけどね? やっぱり、なんか嫌なの。好きな人が……って言うよりはこんなにすごくて努力もしている人が誰にも認められずに無視されていることが何だかモヤモヤしてくるの。……こんな私って、どっか変なのかなぁ……?」
「うん。ぶっちゃけすっげぇ変だね」
……ゆかりにハッキリと言われた。
「アンタの言ってることって、自分の好きな漫画が世間では全く売れてなくってそれに対して文句を言ってるファンの愚痴みたいだよ?」
「……うっ……」
……ゆかりの例えが的確過ぎて、何にも言えねぇ。
「……あんたは昔っからいじめられたり仲間外れにされたりしている子のことを守ったり気に掛けたりするタイプだし、そういうところが由奈のいいところだとは思うけどさぁ……。でも、さすがに麻生くんに関しては考えすぎ、って言うか、余計なお世話なんじゃないの? 別に麻生くんがいじめられてるとかじゃないんだから、彼の存在が地味だってことに対して、由奈がとやかく言うもんでもないでしょ……」
「……それはそうなんだけどさぁ。……私は世の人に、麻生くんのすごさを、もっと知ってほしいわけなのよ……」
「……めんどくさいやっちゃなぁ……」
ゆかりがあきれ顔で言う。
「……ごめん、自分でも何言ってるのかわからなくなってきたわ。……私、ちょっと頭冷やしてくる。ついでに、飲み物買ってくるわ……」
「んじゃついでにしるこドリンク買ってきてーっ」
「……わかった」
「……大丈夫かな、由奈ちゃん……」
「……ほっとこうぜ、理愛っち。……あいつ、今までまともに男子に恋したことなんかなかったからさ、恋する気持ちと推しに対する好意とがごっちゃになっちゃってて、自分でも何言ってるかよくわからなくなってんだよ」
――私の後ろで聞こえたゆかりの言葉が、耳に痛かった。




