由奈、中学デビュー!4 天使ちゃんと弓騎士様と捜査一課長。
――そんなこんなで、一週間以上が過ぎた。
中学にも少しずつ慣れてきた。理愛ちゃんをはじめ、クラスで仲がいい子も少しずつ増えてきた。
麻生くんともよく一緒に帰るようになった。
そんなある日のこと。ゆかりがこんなことを言ってきた。
「そういえば由奈、麻生くん、下竜沢の線路街のところにできた、新しいアイスクリーム屋って行った?」
「ううん? あそこ、うちの反対側だから、あんまり行ったことないんだよね。」
「あそこ、こないだテレビでやってたから行ってみたらさ、」
ゆかり、一拍おいて、
「――めっっっっっっっっっっちゃうまかった。マジでうまい。あんなアイス、今まで食べたことないよ。もうほんとにうまかった。もうひとくち食べただけでで自分の口の中が喜んでるのがわかるもん。いやーっ、あれは素晴らしかった。本当にうまかった……」
――ゆかりの貧しい語彙ではどんな味なのか想像はつかなかったが、とにかく感動するくらいうまいことだけは伝わった。……ちょっと、食べてみたい。
するとそれを聞いた麻生くんが、
「帰り、寄ってみる?」
と言ってくれた。
――『シモタツ線路街』
小田急線が地下に移動した後の線路跡にできた新しい商店街。
どちらかと言えば外からの観光客や買い物客が行くような場所で、私のような地元民にはあまり、縁のないところ。夕方の今の時間は近所の大学の学生や、中高生でにぎわっていた。
「ゆかりの言ってた店ってここだっけ?」
三階建てのビルの一階部分。小さいけれどイートインスペースもある。
テレビでやってたからかそれなりに混んでるけど、今席取りすれば座れそう。
「それじゃぁ僕が二人分買ってくるから、五十嵐さんは席取っといてよ。……注文、何にする?」
「じゃぁ、バニラをお願い。」
――私はバニラが好き。
「オッケー。」
そういうと麻生くんは店の中に入っていった。
――ふふっ、楽しみ♡
ゆかりがあれほどまでにうまいと言い張るアイスの実力、見せてもらおうじゃないの。
そういえば、麻生くんと二人でこうやって買い食いするなんて、初めてだな。
……これってデートみたい?とか浮かれたことを考えてた私に、最悪の出来事が起きた。
「……なんだよ、五十嵐じゃねぇか。」
地元の中学の制服を着た、4・5人の男子が私の席の周りを取り囲むように寄ってきた。
――小学校の時のバカ男子だ。……最悪。
「なんだよお前、こんなところに一人で来てんのか?」
「……友達と一緒だけど、それが何か?」
「友達?友達って、園宮か?」
「……別に誰と来てたっていいでしょ?……じゃあね。」
――まずい、麻生くんが来る前にこいつらを追っ払わないと……
「それって聖玉館の制服だろ?」
「……そうだけど?」
「うっそ、あのお嬢様とかいいトコの坊ちゃんの通う学校かよ?」
――そうよ、あんたたちと離れるために一生懸命勉強して入った学校よ。……文句ある?
「お前みたいな凶暴な山猿が良く入れたよなぁ?」
「コイツんち、金持ちだもん。ちょっと素行が悪くたって寄付金積めば何とかなんじゃね?」
――……ブン殴ってやろうか。……でも、店の前で騒ぎを起こすほど、私ももう子供じゃない。
と、その時、
「お待たせ、五十嵐さん。」
……バカ男子たちをを追っ払う前に麻生くんが来てしまった。
「……友達?」
「……小学校の時の同級生。もう帰るから気にしなくていいよ。」
すると、バカ男子の一人が、
「なんだよ、友達って男か?お前、中学に入ってさっそく男作ったのかよ。」
とにやけた顔で言ってきた。
――うるさい。麻生くんの前でその下品な口を開くな。さっさとあっちに行け。
……麻生くんの顔を見たバカ男子たちが何かコソコソ話している。……いやな予感しか、しない。
「――おい、お前、」
「……僕のこと?」
バカ男子が麻生くんに馴れ馴れしい感じで話しかけてきた。
「……そいつが、五十嵐が小学校の時、どんな奴だったか、知ってんのか?」
「……知らないけど、それがどうしたって言うの?」
「男子のアレを平気で蹴とばすようなヤツだからタマつぶしの五十嵐、通称『ゴールデン・クラッシャー』って言われてたんだぜ?」
ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべるバカ男子たち。
――アンタら麻生くんの前で、なんてこと言ってくれるのよっ⁉
こいつらはいつもそうだ。女子の嫌がることを進んでやってきて、私たちの心を踏みにじっていく。
「他にも男子相手に取っ組み合いの大ゲンカをしたり男子を木の上に吊るしたり、やりたい放題だったんだぜ?小学校の時の五十嵐は。」
―木の上に吊るしたのは吊るしたアイツが気の弱い子を脅して女子の持ち物をごみ箱に捨てさせたりしてたからじゃないっ!……確かにやりすぎたかもしれないけど、私だけが悪いみたいに言わないでよっ‼
「……お前の前じゃ猫かぶってるかもしれないけどさ、そいつはそういうやつなんだよ。……悪いこと言わないから、付き合うの、やめた方がいいぜ? お前みたいなおとなしそうなやつの、手に負える相手じゃねぇよ。」
……許さない、麻生くんの前で、そんなこと言うなんて。
もう、おしまい。せっかく仲良くなれたと思ったのに。
……優しい麻生くんは、きっと私の事、幻滅する。
何でバカ男子はいつも私の邪魔をするのよ……。
そう思った時だった。
「……それがどうしたって言うの?」
麻生くんが冷静に、だけど静かな怒気を含んだ声で答えた。
「ぼくが付き合う相手は僕自身が決める。 君たちにとやかく言われる問題じゃないと思うけど?」
「けっ……けどいいのかよ? そいつと一緒にいると、お前も同じような目に合うかもしれないぜ?」
「五十嵐さんがそれだけのことをするからには、それだけの理由があるんじゃないの? ……少なくとも僕には、五十嵐さんがわけもなくそんなことをする人には見えないけれど。」
「なっ……何カッコつけてんだよっ!知り合ったばかりのお前にこいつの何がわかるんだよっ⁉ こいつは顔だけはいいけど凶暴で暴れん坊の暴力女なんだぞっ‼」
「確かに僕は五十嵐さんとは知り合ったばかりだよ。だけど、五十嵐さんの事をからかいの対象としか見ていない君たちよりはよっぽど彼女の事を見ていると思うけど?」
「んだとテメェ、ごちゃごちゃうっせぇんだよっ‼」
麻生くんにつかみかかるバカ男子。だけど麻生くんは眉一つ動かさずに冷静に言葉を続ける。
「……僕の事を殴るの?……殴ったら騒ぎになって困るのは君たちじゃないの?……ここ、交番も近いし、騒ぎになったら警察沙汰になるかもしれないけど、どうする?」
「うっ……」
そのまま返答に詰まるバカ男子。
「おい、行こうぜ……?」
「ああ…………なんかシラケちまったよな……」
麻生くんの気迫に押され、すごすごと退散する、バカ男子。
「ぜってぇ後悔するからなっ‼」
麻生くんにつかみかかった男子が捨て台詞を吐いていく。
そして、そのままそいつらは、駅の方に消えていった。
「……さあ、彼らの用事も済んだみたいだし、食べようか、アイスクリーム。」
何事もなかったかのように笑顔で私の方を振り返る、麻生くん。そんな彼の姿を見た、私は……
「……どうしたの、五十嵐さん⁉」
……思わず、泣いてしまった。
「五十嵐さん、なんで泣いてるのっ⁉……彼らに何かされたのっ⁉」
「ちっ……違うの、麻生くんっ、私っ………」
――うれしかったの。
……こんなのはじめて。今まで、私がバカ男子から誰かを守ったことはあったけど、私の事をバカ男子から守ってくれる人は誰もいなかった。
王女様を助ける弓騎士様のように、私の事を助けてくれる騎士なんて、どこにもいないって、思ってた。
……でも、ここにいたの。私を助けてくれる、弓騎士様はここにいたの。
――麻生くんが私を助けてくれたことが、とっても、うれしかったの……
「ごめんなさい……」
もう、隠し通せない。
「私、麻生くんに嘘、ついてた。猫、かぶってた。本当の私はあいつらの言ってた通り乱暴者でおとなしくなんかないの……」
「……知ってたよ。」
え…?
「……僕、園宮さんから聞いてたんだ。五十嵐さんの小学校の時の話。」
……あんにゃろぅ、しゃべるなって言ったのに余計なことベラベラしゃべりやがって。
「聞いてたって…どんな話?」
……想像はつくけど、一応聞いておこう。
「五十嵐さんが小学校の頃、男子にいじめられてたって話。」
「え……?」
待って、何その話。
「……五十嵐さん、美人でかわいいから男子にしょっちゅうちょっかい出されて、いじめられたりからかわれたりしてたからそれで男子の事が苦手になったって……。だから園宮さん、僕に言ったんだ。
『――由奈の事、優しくしてあげて? ……あいつ、気は強いし時々やりすぎちゃうところもあるから誤解されやすいけど、根はすっごく、優しいの。正義感は強いし、困っている人を黙って見過ごせない、本当に優しいやつなの。 ……でも、そういったところを見てくれる人は小学校の時は誰もいなくてただの乱暴者だと思われてたから、自分のことを理解ってくれる人はこの学校にはいないと思ってやさぐれちゃってて、ちょっぴりひねくれちゃってるの。人と接することに、臆病になっちゃってるの。 ……でも、麻生くんだったら、知り合ったばかりの由奈の事、あんなに笑顔にしてくれる麻生くんだったら、本当の由奈の事、理解してくれると思う。だから、これからも由奈の事、よろしくね? ホント、あいつはめっちゃいいヤツなんだから――』
……って。」
――ゆかり、そんなこと言ってたの?
……あいつ、ホント、余計なこと、言うんだから………………
……………ホント、泣けてきちゃうじゃないの、あのバカぁ……………
めっちゃいいヤツは、アンタだよ――
「――それにね、僕だって、そんなにおとなしくないよ。僕も小学校の時は見た目が「弱そう」とか「おとなしそう」って理由で男子のいじめやからかいのターゲットになってよく取っ組み合いのケンカになってたし。僕も五十嵐さんと、一緒だよ。」
麻生くんが優しく微笑む。
「……だから、五十嵐さんの事、軽蔑なんてしないし、嫌いになんか、ならないよ。……せっかく友達になれたんだもん。僕も、五十嵐さんとずっと仲良しでいたいよ。だから、これからも一緒にいよう?」
「うん、麻生くん……」
――その日食べたアイスクリームは、世界で一番、おいしかった。
もちろんゆかりがいってた通り普通においしいアイスだとは思うけどそれだけじゃない。天使がかけてくれた、魔法のスパイス。甘くてときめく、魔法の味。
――私はこの日に食べたアイスクリームの味を、一生忘れないと思う。
――やっぱり、麻生くんは天使だった。
私のすさんだ心を、温めてくれる、天使。
今までの嫌なことは、全部この人に逢うための試練だったのかもしれないとさえ思えてくる。
――神様、受験の日に私を転ばせてくれて、麻生くんとめぐり逢わせてくれて、ありがとうございます……。
――夕方、日も暮れてきたので麻生くんが家の前まで送ってくれることになった。
「……でもさ、麻生くん?」
「何?」
「私やっぱり麻生くんが男子と取っ組み合いのケンカしてるところなんて、想像できないなぁ……。」
「そうかなぁ。」
……なんだろう、別に麻生くんが嘘をついてるとな思わないけど、麻生くんのケンカって言ったら子犬や子猫がじゃれついている姿を想像してしまう。
それくらい、天使で紳士な麻生くんと暴力的なものは結びつかない。
……そんなことを思っていた時だった。
「誰か―――っ!助けて――――――っ‼」
突然女の人の叫び声がした。
あわてて声のした方を見ると倒れているおばあさんと、おばあさんから荷物をひったくった男が逃げていく姿が見えた。
「大丈夫ですかっ‼」
私はあわてておばあさんに駆け寄り、急いで110番をしようとスマホを取り出した。
――次の瞬間。
麻生くんがダッシュでひったくり犯を追いかけていった。
「危ないよっ!麻生くんっ‼」
私は叫んだ。
――しかし麻生くんは私の呼びかけには構わず男を追いかけ、その足にタックルをする。
体勢を崩した男はなおも逃げようとするが麻生くんは男の足を離さない。
――すると男は麻生くんを振りほどこうと麻生くんに殴りかかってきた。
……だが、麻生くんはそれを軽くかわすと今度はその殴りかかった腕をつかんで男の背後に回り、そしてそのままの勢いで近くの電柱に男を投げ飛ばした。
男は一瞬ひるむもなおもおばあさんの荷物を持ったまま逃げようとする。
すると麻生くんは再び男の背後に回り、男の腕を後ろ手に捻り上げる。そして、痛がる男の一瞬をついて今度は柔道の締め技で男を締め落としにかかる。
……そして、男はそのまま麻生くんによって、完全に制圧されてしまった――
――この間、数分。
この間、私の脳内に『捜査一課長・勝木鮎美』のテーマが鳴り響いていた。
――りっ……、リアル勝木鮎美だ―――――――――っ‼
私の中で、麻生くんと勝木一課長の表情がオーバーラップする。
あのキレのある動き、あの凛とした表情。まさに私の憧れの勝木一課長と同じ。
……私は今、目の前で起きた出来事が信じられなかった。
――でも、なんで⁉ どうして⁉ ……優しくて暴力と無縁そうな天使みたいな麻生くんが⁉
さっきだって悪ガキを暴力を使わないで口だけで追い払ってしまった、あの麻生くんが⁉
あの小さな体の中のどこに、あんな力が隠されているっていうのっ⁉ えっ、えっ、え――――――っ⁉
目の前で起きた出来事の情報量の多さに、私は頭の中が真っ白になってしまい、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。
「お嬢ちゃん、大丈夫っ⁉」
助けようとしたおばあさんに心配されてしまった。……って言うか、110番っ‼
――お巡りさんさんが近所の交番からやってきて、犯人は無事に確保された。
「………大丈夫だった?五十嵐さん。目の前であんなことがあったから、怖かったでしょ?」
犯人を引き渡して警察の事情聴取を受けた後、麻生くんが私に心配そうに話しかけてきた。
「確かにちょっと怖かったけど……」
って言うか、今の気になる問題はそこじゃない。
「……っていうかそんなことよりも、麻生くんてあんなに強かったの⁉ って言うか、なんであんなに強いのっ⁉ どうしてっ⁉ 何かやってたのっ⁉」
私の質問に、麻生くんは恥ずかしそうに答える。
「……僕の家、というか僕の母が柔道と空手の師範をやってて、小さいころからトレーニングをしてたんだ。ほら、僕、こんな見た目だから男子からなめられることが多くて、それでバカにされないように強くなろうって思って……」
「――でも、それであれだけ強くなるってすごくない? ほとんど達人の域に達してたよっ⁉ さっきのはっ‼」
「……達人なんて……僕なんて、全然だよ。 僕の母とか姉たちに比べたらさ……。」
――いやいや、あれよりもすごいなんて、麻生くんのお母さんとお姉さんて、何者よ……。
「でもすごいよ麻生くん。さっきのバトル、まるで『捜査一課長・勝木鮎美』の勝木一課長みたいだった‼」
すると麻生くん、それを聞くと顔を真っ赤にして、
「ああ……勝木鮎美ねっ、ああ……うん……ありがとう。」
ものすごく恥ずかしそうな表情で照れながら答えた。 ちょっぴりうれしそう。
……もしかして、麻生くんも『勝木鮎美』、好きだったりするのかな。
「……でもさ、五十嵐さん、これで信じてくれた? 僕が小学校の時、男子と取っ組み合いのけんかをしてたこと。僕も五十嵐さんと一緒だってこと。」
「うん………信じる♡」
――やっぱりすごいよ麻生くんは。こんなすごい人に出会える運命が待っているなんて、小学校時代の私に聞かせてあげたい。「頑張ったらいいことあるぞーっ‼」……って。
――天使ちゃんで、弓騎士様で、勝木捜査一課長で、私の好きなもの三点盛り欲張りセットな麻生くん。
これから、私の学園生活にどんなことが起こるのかはまだ誰にもわからないけれど、麻生くんと一緒だったら、楽しい毎日になるに、決まってる。
明日は、どんなことが、あるのかなぁ……♡ こんなに明日が待ち遠しいのは、いつ以来だろう。
麻生くんと、ゆかりと、理愛ちゃんと、みんなと過ごす明日が待ちきれない。
――早く明日にならないかなぁ……。
……そんなことを考えながら、私は麻生くんに送られて、家路についた。
一話目はここで終了です。このシリーズはこのように「少女漫画の読み切り連載の一本分」位の話を少しずつ投稿していくような形になると思います。一応、由奈たちの中学卒業くらいまでは続けていきたいと思いますのでしばらくの間、お付き合いしていただけると幸いです。
ちゃんとした形の小説を書くのは初めてなので、短い話なのに苦労しました。
何しろ点でアイディアは思いついても線で一本の話にまとめる構成力が決定的に欠けているもので……。点と点の話をつなげるときに生まれてしまう矛盾をつぶしていくのにとにかく苦労しました。読みにくかったら申し訳ありません。
作中の智の格闘シーンで由奈の頭の中で流れていた『勝木鮎美』のテーマですが、『科捜研の女』のメインテーマをイメージして書きました。
格闘シーンは苦手……というかほぼ書いたことがなかったのでこの曲のイメージにはずいぶん助けられました。(そもそも『勝木鮎美』というキャラクター自体が『科捜研』のテーマをバックに女性刑事が格闘してたらカッコいいだろうな、という発想で作ったキャラだったりします。)
余談ついでに、ゆかりのアイスクリームの感想の下りは椎名誠さんの『哀愁の町に霧が降るのだ』の中の「うまいカツ丼を食った時の沢野ひとしさんのリアクション」のオマージュだったりします。




